今日あったことだって?
あったさ、間抜けなことがさ。

銀座の街を日傘を差して歩いていたと思ってください。
暑いなぁ。汗だくだくだ。

有楽町駅に着いた。折り畳みの日傘をたたみ、カバンを下に置いた。
その横にはお気に入りの不織布の袋に入ったスーツの上着が。

東京駅で乗り換え。妻ピグに東京バナナでも買ってやるか。
そこで気がついた。
上着の入った袋が無い!

JRの遺失物センターみたいなところに問い合わせても無いと言う。
一縷の可能性に縋り、有楽町駅に戻る。
こんな時は時間が経つのが遅いもんだ。

イライラするなぁ。みんなのんびりしやがって!



ドアが開くのももどかしく、有楽町駅のホームを反対側に戻る。



いや、戻ろうとしていた。

そんな時、見つけたんだな。
いやいや、夢想ノ丞の探し物じゃないよ。

年配のお爺さんが被るような帽子が落ちていた。

乗り込むお爺さんもいた。でも、このお爺さんのものとは限らない。



一度は黙殺して走り過ぎた。
でも、振り返った。
まだ、電車は出てない。

「誰か帽子を落としていませんか!」
振り向いたのはやっぱりそのお爺さん。
閉まりかけたドアの隙間から帽子を縦にして放り込む。
お爺さんはにっこり笑ってキャッチ。

ああ、いいことしたなぁ。
いいことしたけど夢想ノ丞のスーツの上着は見つからなかったのだよ。
ま、命まで取られた訳じゃなし。
生きてるだけで丸儲けさ。