1章 【全てはここから始まった】


【三柱】

東京タワーの真下で2つ影が見えた。

一つの影が片方の影に近づいた。

「おう、元気にしてるか?お地蔵さん」
燕尾服を着た男が白い軍服を着た男にそう話しかけた。

「……」

「はぁ……全くお前ははいつも通りだんまりか?」

燕尾服の男はつまらなさそうに白い軍服の男をじっと見つめる

「今のお前に、何も話すことなどない」

白い軍服の男はそう言って燕尾服の男に刀を突きつけた。

「へぇ……やろうってのか?クソジジイに成り下がったお前の人間の体と、この俺様の不老の怪人の体だぜ、勝つのはどっちか分かるだろ?」

燕尾服の男がニヤつきながら殺気だてている。

その二つの影の間にもう一つ、黒く、白い影が現れた。

コツコツと靴の音がこちらに近づいてくる。

白髪の黒いスーツを着た男が現れた。
男は2人ににっこりと笑顔をみせた。
「まあまあ、2人で喧嘩なんてずるいじゃないか。僕を、忘れてないかい?」

男が天に手を挙げた瞬間、地面から数千もの剣が天から2人を目掛けて降り注いできた


【元凶であり、起点】

僕はこの世界が嫌いだ。
この世界は僕の存在を拒否する。
僕の存在を消そうとしている。

「おい神崎」

特に人間は嫌いだ。
人間は弱い者を虐めるのがす______

「おい聞いてんのかこのオカマ!」

「!?」

ブレザーを着た厳つい男に急に後ろから金属バットで殴られる。
激しい鈍痛に襲われる。
気がつくと僕は大人数のガラの悪い男に囲まれていた。

そういえば……僕は、高校にいたんだっけ……「ぼー」としてて、ここが教室であることも分からなかった……

「てめぇ……ら……またかよ……」


僕はあまりの痛さに椅子から転げ落ち、頭を抱えて倒れた。


この不良グループはいつも僕に突っかかってくるのだ。

4月の始業式の日、不良グループな目をつけられ、僕が生意気な対応したせいか、いつもボコボコにされる日々を送っていた。

「あ?なんだと?」

「口の聞き方がなってねぇなぁ!?後輩のくせによぉ」

1人の厳つい男が僕の前髪を掴みあげて僕の顔をみた。

「奴隷は、奴隷らしくしろや。奴隷の分際で俺達のこと舐め腐りやがってこの男女」

「……誰がいつ、お前らの奴隷になったんだよ…この屑野郎が…」

「んだと?この野郎!!!」

そのまま顔を叩きつけられ、僕はリンチにあった。

「またボコられてるよ神崎……」
「迷惑だからいっつも外にいてくんねぇかな、あの疫病神」
「おいおい、やばいだろ死ぬんじゃねぇのか?」
「別にあいつ死んだって、困る奴誰もいないでしょ」

クラスメイトのいつもの冷たい視線が僕の身体を更に痛みつける。
いつものことだ。

「でも、やばいって!先生呼んだ方がいいって!」
「何言ってんだよ!もしかしたら死ぬとこ見れるかもしれねぇぞ!!!」
「悪趣味過ぎるだろお前」

傍観者は、楽しそうに僕が殴られる様を見つめている。
悪魔にしか、みえない。

ああ、お前らが殴られればいいのに……なんで僕が……



「今日はこのくらいにしておいてやる」

「シメにこいつの机と椅子、外に放り出すか!!!」

「やること古っ!いつの時代のドラマだよー!それー!」

ゲラゲラ笑いながら、不良共は僕の机と椅子を窓から放り投げた。

「かわいそうに、神崎くん~」

「次生意気な態度取りやがったら、本当にぶっ殺すからな」

そう言って不良共は教室を後にした。


いたい……身体がいたくて、立ち上がれない……力を入れただけでも筋肉に激痛が走る……
あと、物凄く、左腕が痛い……

倒れた僕に追い討ちをかけるようにクラスメイトの1人が倒れた僕の頭を蹴る。

「いいザマだな、神崎!いつになったら学校やめてくれんだ?」

そう言って、僕の頭を踏んずけたり蹴ったりした。

意識がもうろうとする……
死ぬんじゃないかって思った……

いやもう、死んでもいいかもしれない。


その思った、時だった。

「おっはようございまーす」

教室のドアが蹴りで勢いよく吹き飛び、青年が教室へと入っていった。

「誰だあいつ?」

「教室のドア壊しやがったぞ……」


「お前!誰だよ!!!いきなり入ってきて!」

1人の男子生徒が青年に向けて言った。

すると青年は面倒くさそうに
「俺?俺はこのクラスに転校してきた周骸(あまね むくろ)っていうんだ。よろしくな」
と答えた。

「転校生?」

「そういやなんか来るとか来ないとか言ってたような……」

青年は僕の方にゆっくり、近づいてきた。青年は僕の頭を何度も蹴った男子生徒に問いた。

「なんで、こいつの頭蹴ってんの?」


「は?こいつ、うざいからボコしてるだけだっつーの」

男子生徒がイラつきながら対応する。

「そいつ、死にかけてるぞ、やめたほうがいいんじゃねぇーのか?あと痛そう」

「別に死んだって構わねぇよ、クラスの疫病神なんだし」

「でも、こいつ死んだら暴行罪と殺人罪で捕まるぞ。いいの?」

「あっ……」

男子生徒は焦り始めた。

「救急車!!!救急車早く呼べ!!!」


こうして、僕は、病院に運ばれた。

これがヤツとの初めての出会いであり、原点でかつ、元凶。





目が覚めると、僕は病室のベッドにいた。

「……僕は、殴られて、気失って、病院に運ばれたんだっけ?」

額に手を当て、ぼーっと、天井を見つめる。


死んだ方がマシだったかもしれない。僕の人生、生きた心地がしない。

僕には愛してくれる家族もいなければ、愛してくれる友もいない。

何のために生まれ、何のために今を生きているのか分からない。
他人に嫌われ、不良のサンドバックになるために生まれてきたのだろうか?
そう思うと余計に死にたくなる。


「……死にたい」

そう、一言つぶやいて寝ようとした。

すると、病室のドアがゆっくりと開いた。

「どうもー、神崎くん……?だっけ?お前」

知らない男がニヤニヤしながら病室へ入ってきた。

「……誰だお前」

「簡単に言うとお前の命の恩人だよ」

男はドヤ顔しながら自慢げに言う。

「は?」

「いや!だから、怪我したお前を見つけてだな!救急車を呼ばせたのは俺だからな!」

周は自分で自分を指さしながら慌てて俺がお前を助けたアピールをする。

「……知らねぇよ、誰なんだよお前」

「あー、お前1日気失ってたもんな。そりゃ分からねぇよな、昨日お前の学校に転校してきた周骸っていうんだ。よろしくな」

周は握手の手を差し伸べた

「俺はお前の命を救ったんだぜ!」なんて言われてもいきなりすぎて、状況が読み込めないし、別に救って欲しくなかったしあのまま死ぬのが本望だったし、馴れ馴れしく接するやつは嫌いだ。

「あっそ、興味ない、さっさと帰れ」

その握手の手を引っぱたいて、僕は周を蛇のように睨みつけた。

急に命を助けただの言われても困惑する。

「なんだよ、お前。まるで番犬みたいだな……噛みついてくんなよ…」

顔をしょぼーんとさせる周。

「犬じゃねぇよ!!!人間だよ!!!」

「うお……すっげぇ感情的……」

僕が感情的すぎて驚きを隠せない周。

「うっせぇ!さっさと出てい……」

周を追い出そうとベッドから降りようとすると、バランスを崩し、全身が床に落ちた。

「いっで……」

「お前怪我人なんだから大人しくてろよ」

周は心配するような顔して、崩れ落ちた僕の身体をベッドに戻した。

「ま、俺は様子見に来ただけだから、じゃあな」

周はそう言うと、背を向け、僕に手を振りながら病室を出た。

「なんだ、あの男……」

なんだか、二度と見たくない顔だった。




僕は1週間入院することになった。
左腕を骨折するなど、結構怪我が酷かったようだ

暇だ…。病院内でも歩こうかな。

僕は点滴スタンドを押しながら、病室を出た。

病院内を歩くといってもただ歩くだけじゃつまらない。
僕は、いろいろな病室を、歩き見て回った。

ある病室では、小さな男の子を多くの男の子が取り囲んでいた。

「わ!サッカーボール……!」

「お前ぜったい!病気治せよ!」

「治ったらいつものようにサッカーしような!」

小さな男の子を応援する多くの声

小さな男の子は満面の笑みで答えた。
「勿論……!絶対!サッカーしよ!」


この子は、多くの友達から愛されてて羨ましいなと思った反面、愛されやがって……憎たらしい……僕は全く愛されてないのに…と、僕は思った。


病室には、ひとり寂しくベッドで寝ている者もいれば、さっきの少年のように、見舞いに来る者もいた。

僕に、僕を心配してくれる人間なんて

一人も来なかった。


考え事をしながら、とぼとぼと歩いていると、後ろからドサドサドサっと、物が落ちる音がした。

黒く長い髪をした少女が、重そうな古い本を何冊も拾っていた。
少女はとても慌ている。

流石に重い本を女の子に持たせるのはかわいそうだと思ったから、僕は一緒になって、女の子の本を拾った。

「……あ、ありがとうございます」

少女は、顔をあげ、僕に礼を言った。

「い、いや……だって重そうだし……持とうか?」

「でも……」

少女は僕の左腕をまじまじと見つめた。

「貴方、怪我してます……怪我人である貴方がこんな物を持っては危ないです」

少女は申し訳なさそうな顔をした。

「……大丈夫です、拾っていただきありがとうございました。では。」

少女は、にっこりと笑みを浮かべ、奥の病室へと消えていった。

「……なんだか、変な女の子だなぁ」


少女は、普通の少女とは違う何かを感じた。
それは何なのかははっきりと分からない。

また歩いていると今度はホールへと、たどり着いた。
ホールにはテレビがついてあり、『怪人』についての特集をしていた。

『今日8時50分頃、渋谷区の駅前で52名が殺害されました。警察は怪人の犯行とみて……』

なんだ……怪人って……?
全然テレビ見てないから分からない……

「また怪人の仕業か……」

「対策局は本当に無能だねぇ……」

なんだこのニュース……怪人って本当に何だ?
怪人なんて、空想のバケモノなんじゃないのか?

「怪人が、最近暴れ回っているみたいですね……」

1人の看護師が僕に近づいてきた。

「あっ……あの……」

「はい?」

「怪人って……なんなんですか?
僕、世間知らずで……よく分からなくて……」

「ああ、そうですね……怪人って、」

「こんな感じですよ」

看護師の顔が変形し始めた、額からは角が生え、身体も変形し、人の形をしていなかった。

「え…」

僕はその姿に絶句した。

いきなりの出来事が起こると、やっぱり僕は状況を飲み込むことが難しいようだ。

鬼のような姿をした看護師を見た周りの患者や看護師たちはあわてて死にものぐるいで逃げ出した。

僕は呆然と立ち尽くしていた。
足がすくんで、動けなかった。

「別に、他の人間には興味ないの。食べたいのは、殺したいのは貴方だけよ」

「搬送された時から、気になってたのよ。今日の夜に食べようかと思ったけど、もう我慢できない……!」

鬼のような怪物は鋭い爪で僕の腹を一瞬で真っ二つに裂いた。

「ぐへ」

僕の下肢と上肢は勢いよくバラバラに吹っ飛んだ。

意識がもうろうとした。

痛い……痛い……けど……あまり……感覚が……なくなってき……

鬼は、僕の上肢の断面から溢れ出る血をすすり始めた。

「何…これは……美味しいと思ってたのに意外と不味かったわね。」

鬼は僕の血をぺっと、吐き出した。

「本当はめちゃくちゃに原型がくなるまで殺したかったけど、我慢出来なかったから仕方ないわね。局がもうすぐ来ちゃうかもしれないし、早くここを離れないとねぇ」

鬼はニヤけながらそう言うと僕の上肢を地面に叩きつけ、病院を後にしようとした。
その時。

「おい、どこ行くんだよゴブリン」

鬼の前に、ある男が立ちふさがる。

周だった。

「公共の場で派手にぶち殺す馬鹿な怪人もいるんだな」

「……なんだお前は…どけ!」

鬼が周に襲いかかろうとするが、
鬼は一瞬で串刺しになった。

「お前、俺に襲いかかってくるなんていい度胸してんじゃねぇか。三下」

周の背から、骨のような、8本の蜘蛛のような足が生えており、鬼を串刺しにしていた。

「かはっ……て、てめぇ……なんなんだよ……噂の怪人狩りか?」

「この後死ぬ奴に何も言うことはねぇよ」

淡々とした表情で周は背の8本の足で鬼の身体をバラバラに裂いた。
周は多量の返り血を浴びた。

「さて、問題は……」

周は僕の上肢を見つめた。

僕の上肢の断面が大きく変形し始めた

そして、段々と上肢から、下肢が再生されていっ
き、両腕の筋肉が異常に発達し、青い色のした鋭い爪が伸び、額からは、鬼のような青い角が出ていた。

まるで、その時の僕の姿は、さっきの鬼のようであった。

「お前とは仲良くなれるって思ってたんだけどな。こうなった以上、殺すしかねぇな」

「く……る……し…………た…………すけ………いや……………あ…………」

その時、僕の身体はとても熱くて、とても痛くて、とても冷たく感じた。

呼吸する度に、肺が焼けるように痛い。

何かに呑まれそうな感覚に陥った。

「俺は、お前を助けられない。
でも、一瞬で殺すことは出来る」

そう言い、周は無表情で僕の首を持つ。

「じゃあな、神崎 彌紀」

「その人には、まだ、死んで欲しくないのですが」

あの時、本を拾った時に出会った少女が僕と周の方に近づいてきた。

「なんだよ、クソガキ。いきなり現れやがって」

「私は、ジャンヌ。」

そう言うと、ジャンヌは僕に触れた。

触れた途端、僕の身体は光に包まれ、僕の鬼のような身体は人間の身体へと元に戻っていた。

その様を見て、周は目を丸くした。

「……!?!?なんだ、今の……」

「私の魔法は、半怪人の力を制御することができるだけよ。完全に人間に戻ったわけじゃない。」

「魔法は、万能じゃないのよ。でも、これでもう、貴方が彼を殺す理由はなくなったわ。今の彼に、人を殺す程の力はない。半怪人止まりよ。」

ジャンヌを名乗る少女は僕の身体をずるずると引きづりながら病院を去ろうとした。

「おい待て」

「何よ。彼に悪いことはしないわここの病院から出すだけよ」

「……お前、何者なんだ。てめぇも怪人か?」

そう言うと、ジャンヌは呆れた顔で

「私を怪人なんかじゃないわ……」

「それと、骨蜘蛛男さん、あなたはどうして同志狩りをしてるの?」

「てめぇには関係ねぇよ」

「そう」

そう言うと、ジャンヌは僕と共に姿を消した。

「……変なガキだな」

周は、そう、ぼーっと呟いた。


怪人とは、一体何なのだろうか。
自分が人間から何になったのか。
僕にはまだ理解出来なかった。