松本てふこさん『汗の果実』は、俳句にも泥のような生き辛さが盛り込めることを教えてくれる。「会社やめたしやめたしやめたし落花飛花」「バナナシェークづづづ桜が咲いてゐる」。やめたいの連呼やシェークを啜り上げる私とは関係なく、花たちは生きていくが、俳句は花も泥のような私も置いていかない。

俳句って一見、すっとしてるのかなあとか、すましてるのかなあ、とか思うが、連呼してシャウトしてもいいし、ずずずとぬかるみのように重たいバナナシェイクを啜り上げてもいい。タイトルの「汗」が象徴的で、俳句は汗をかいてもいいってことでもあるんじゃないか。いきることはすますことではないから。

「たんぽぽのどこか壊れてゐる黄色／松本てふこ」「春の野にただ突つ立つてをりにけり」。多分たんぽぽを見てる私が壊れちゃってるんだけれど、ひとは時々壊れちゃうことがあるし春のど真ん中でただつったってることもある。そういう壊れた風景もひとつずつの点として抱えながらふつうに生きてゆくこと。

松本てふこ『汗の果実』 すますことではないから