キューブリック『シャイニング』。〈たどりつけない〉サイコホラー映画。小説家志望のジャック・ニコルソンは結局小説を書き終えることができず、妻や息子を殺そうと必死に追いかけるも追いつけない。扉に顔が挟まってるのは〈たどりつけなさ〉の象徴。《手前で挫折》という社会にはよくあるホラー。

もうひとつ興味深いのが唐突に差し挟まれる幽霊のホモセクシュアルシーンで、これはこの映画が《異性愛の挫折》を扱ってるからじゃないかと思う。ニコルソンは全裸の女性霊と出会いセッ クスしようとするが老婆のゾンビになる。先ほどの妻の前のドアによるヘッドロックも《貞操帯》のメタファーになる。




例えばこの映画で殺される家族の唯一の理解者ともなる料理人のおじいさんは、ベッドルームに何枚もむちむちのヌード写真を飾っている(不思議なシーン)。このおじいさんはセッ クスに関していまだ現役ばりばりな感じの象徴だが、おじいさんがニコルソンに殺されるのはその性の現役感があだになっている



『シャイニング』には〈たどりつけなさ〉のこわさがあるが、もっというとこの〈たどりつけなさ〉のこわさの根っこは〈性不能〉のこわさじゃないかと思う(性恐怖)。小説家志望という男性の社会的なクラスからも逸脱した男性性を誇れない主人公が性不能の恐怖の果てに凍死(どこにもいけない)する映画