今度の『マリオオデッセイ』ではクッパがピーチ姫との結婚を目論見、それをマリオが阻止する冒険に出るのだが、ここでふっと思うのは、じゃあどうして今までマリオはピーチ姫と結婚しなかったのだろうということだ。マリオはひとの結婚は阻止はするが今までなにをやっていたのだろう。

わかんない。わかんないけどちょっと映画『卒業』を思い出す。ダスティン・ホフマンは最後、ひとの結婚を阻止して、彼女の手を取りバスで逃亡するが、ふたりの視線はすれ違い、これからの未来が暗いことを予期させる。マリオがピーチと結婚したときいったいなにが次に起こるのだろう。

昔、少し思ったことがあるのだが、マリオの世界ではキノピオやノコノコなどがピーチやクッパの家来としている世界であり、その点では階層的には、クッパとピーチは同じクラスにいるようにも思う(階層社会)。実は、マリオのゲームは階層間の違いによるマリオとピーチの結ばれなさがあるのではないか

問題は、というかこれが最大のミソなのかもしれないが、わたしたちはマリオの内面をまったく知らないということではないだろうか。たとえばマリオがすさまじくどす黒いことを考えたり、あるいはほんとうに全くなんにも考えていない人間であったとしても、わたしたちにはマリオの内面を知る機会がない

私は今までクッパはピーチをさらってどうするんだろうと不思議だったのだが(異類をさらって何をしたいのか)、クッパはピーチと結婚したかったんだとわかって、マリオはずっと異類婚姻譚の物語だったんだとわかった。マリオはその異類婚を阻止し、流動しそうな社会の価値体系をずっと保守してきたのだ

だからある意味で、社会の規範を暴力で持続させようとする保守主義者のマリオと、社会の規範を暴力で革新させようとする革新主義者のクッパとの戦いというふうにも言えるのだろうか。ただピーチはマリオにファミコンの頃から褒美としてキスしたりしていたので、ピーチの内面も気になるところだ

気になるのがキノピオの扱いで、キノコはこのゲームは能力アップの〈道具〉であり人格扱いされてないが、同類のキノピオは、ピーチに仕え、やはり下のクラスである(マリオから踏まれたりもする)。たとえばキノピオたちが革命を起こすとしたら(数は多いからいけそう)どういう可能性があるのだろう

不倫のルーツはたしか騎士道恋愛にあったように思うのだが、もしマリオとピーチが騎士道恋愛だとすると、なぜピーチはキスを褒美に与えながらもマリオと結婚できないかが理解できるような気もする。つまりピーチはもう結婚しており、マリオは騎士道精神(実直な不倫愛)をピーチに捧げ続けているのだと