吉田類さんがよくいう言い回しに、「最高だと思います」っていうのがあって、それがすごくこの番組の風合いの特徴をなしているんじゃないかとおもうんですね。

なにかを食べて「最高だと思います」って言う。
「最高です」とは、言わない。断言しない。
おもう。

それってどういうことかっていうと、飲み屋や酒場で、直情的に断言しないで、「思う」ってワンクッションはさんだ《思う主体》になっているってことだとおもうんですよ。

で、この吉田類さんが酒場や飲み屋で行っている《思う主体》っていう《ここちよいまわりくどさ》がこの番組の独特の魅力になっているとおもうんです。

かならず飲み屋を紹介したあとに吉田類さんの句が一句入って番組が終わるんだけれども、それも俳句を介在させることによって直情的なべったりした主体にならないことのあらわれだと思うんですよ。俳句的距離合いがある。

だから吉田類さんってその意味においてはちょっと《孤高》だとおもうんですよね。みんな、飲み屋で直情的になっていくなか、ひとり、「最高だと思います」って《最高》にさえ直にさわれないでいるから。みんなが最高でいるなかで。

でもそのとき、あっ、この番組のタイトルってそういえば《放浪記》なんだって思い出したんです。放浪する吉田さんは《最高》の価値観をみいだしちゃいけないんですよ。いつも思うだけで。放浪するために。