はい、といいながらも、「は」と「い」の間隙をくぐりぬけようとするとき、なにとはなしに、わたしは、ちらっと、むかし、すきだったひとのことをおもいだす。
なんにもなかった。
とくになんにもなく何年かをちかくで過ごし、さいごに、さようなら、とそのひとはいった。わたしは、それに対し、ただ、はい、といった。
はい。
あのときも、わたしは、そんなかんじでこんな返事をしたのだった。