部屋でチェーホフを読んでいたときに、ゆうじんが、すさまじい数のグループフルーツをもって、わたしの部屋にきたことがある。
うれしい、というよりも、おそろしかった。
ふくろからひとつひとつとりだしては、それをわたしに投げつけてくるのかとさえ、おもった。
ゆうじんにたいして、わるいことはしていないつもりだった。しかし、よいことも、していなかった。
やはり、投げつけられるのかもしれないと、おもった。
ここには世界中のグレープフルーツがあるね、とわたしは冗談をいった。ゆうじんは、わらわなかった。
わたしは、もしゆうじんがグレープフルーツを投げつけてきたら、わたしはチェーホフ全集を投げつけていこうと、おもった。全16巻、あったから。
わたしはわざわざそれをいったが、やはり、ゆうじんは、わらわなかった。
わたしは、わるいひとでは、なかった。