呼べばおまえがくわえたままで振り返るアイスクリームのかぼそい木べら  飯田有子



『文芸すきま誌 別腹vol.7』に付いていた豚の栞とポストカード。
カードには飯田有子さんの短歌「呼べばおまえがくわえたままで振り返るアイスクリームのかぼそい木べら」。
私も好きな食べ物は、アイスクリーム食べ終えたあとの木べら、だ。

私はこのときの『別腹』の「偏愛する食べ物」の項で、「ポッキーのもつほうじゃないほう」が好きです、と答えたのだが、いま考えてみると「ポッキーのもつほうじゃないほうじゃないほう」つまり「ポッキーのもつほう」が好きだったかもしれず、もっと考えてみると、「ただもつやつ」つまり「木べら」がわたしの「偏愛する食べ物」だったかもしれない。

あのアイスクリームを食べ終わったあとの「木べら」の中毒性はなんだ、と思うのだ。
ニーチェはあの木べらをあまりになんどもなんどももうそろそろ捨てようと思いながらもまた口にくわえてしまうため〈永劫回帰〉を思いついたんじゃないかと思うくらいわたしはなんどもなんどもあの木べらに還って、ゆく。
わたしにとっての胎内回帰とは、あの、アイスクリームについてる木べらのことだ。

いつかわたしはたいせつにくわえていた木べらを泉におとしてしまって、女神から金の木べらや銀の木べらをもらうことになるのだけれど、でもきらきらと金の木べらをくわえながら、やっぱりわたしはアイスクリームをたべおえたあとのふつうの木べらがいいな、とおもうのだ。
泉に漬け込んだ返してもらった木べらとかじゃなくていいから。わたしがうそつきでも、正直者じゃなくても、それでもいいから。

 くわえろといえばくわえるくわえたらもう彗星のたてがみのなか  穂村弘