靴ひもは、急にほどけたりする。
ひとのおおいみちなんかではずれるとたいへんである。
朝のラッシュで混み合っている駅なんかで外れると靴ひもをむすびなおす場所すらもない。
だからわたしは、靴ひもが外れたときに、かがんで結ぶスポットみたいのがそこかしこにあったらいいな、とおもったりする。駅前なんかに。喫煙所みたいに。あの、Wi-Fiスポットあります、のようなかんじで。
KH∞(つまり、クツヒモ・結ぶ)スポットあります、みたいなかんじで。
そうしたらああやべーまにあわねーすんませんーみたいなかおをしておざなりにその場しのぎの靴ひもを結ばないで、靴ひもを結べるスポットにはいって、すごくおだやかなかおをして、ゆったりと優雅なきもちで、靴ひもをわたしは結ぶから。
まるでだれもいない草原で風にふかれながら陽につつまれながらむすぶように、わたしは、靴ひもを、むすぶ。
だれもみたことがないようなすばらしい結び方の靴ひもをたずさえたひとびとが、靴ひも専用スポットからひとりひとりくりだしてくる。
靴ひも専用スポットとは、そのような場所だ。 
靴ひもに夕陽があたるたびに、複雑な反射をしつつ、それは蝶のかたちをとりながら、きらきらする。