部屋に帰ると女性がいたのでわたしは驚いた。

ジョン・スミスです、
と彼女は名乗った。
雨が立ち込むようにしずかに微笑う。

スミス・ジョン?
とわたしはかすれた声でたずねた。ひとは声質でそのひとの持つべき庭をさとられるんじゃないかなと思いながら。

いいえ、ジョン・スミスです、
と彼女はいった。
ジョン・スミス。

ふいに積み上げた本がなだれるようにして電話が鳴った。

ちょっとすいません
というとわたしは受話器をとった。

もしもし?

あなた、ジョン・スミス?
女性の声だった。

どちらさま?

ジョン・スミスです。

ジョン・スミス?
あなたも?

いえ、わたしは世界で最後のジョン・スミス。

女性はたしかにそういった。
わたしは泣きそうな顔をして振りかえった。
ハロー・マイ・フレンズ、という感じで女性はわたしに黙って笑いかけた。

ジョン・スミスがふたり、とわたしは思った。

そのとき部屋のドアがひらいた。
がたいのよい宅配屋がいて、ジョンっておたくでいいわけ!?といった。わたしも?

その日から、わたしの部屋でジョンがあふれはじめたのである。

青い霧もささない、
深く密度のあるジョン・スミスの森では、
ジョン・スミスの亡霊がでるという。
かれは世界一やさしい亡霊だといわれている。
そういうことに、なっている。