藤枝さんのマンガの人間たちは徹底的に負性を帯びています。
たとえば、熱血・友情・根性・正義・平和・愛などといった社会にとっては特権的テーマをすべて裏返したような人物たちが藤枝さんのマンガの人間たちです。
主人公も、万引き癖があります。
ただここで大事なのは、主人公がそうした万引き癖に悩んでいない点だと思うんです。かつ、自省的です。万引きするじぶんをじぶんが対象化する視線も有しています。
つまり、《病んでいる》ということが特権化されていないってことだとおもうんです。
よくあるように《病んでいる》ことがドラマになっていくのではなく、《病んでいる》ことはキャラクターの特性となっている。
だから、万引き癖があってもそれは本質的に《病んではいない》んです。そこにはまって人物が身動きがとれなくなるということでもないので。
むしろその《病んでいる》キャラクター属性はポジティヴに、キャラクター同士を負によって結びつける絆としても働いていきます。《秘密の共有》というかたちで。
藤枝さんのマンガのおもしろさは、そんなふうに負が負として取りざたされず、むしろ人間関係を形成していくさらっとしたものとして描かれていくところにあるとおもいます。
そこにはわたしはこんなふうに病んでいて、過去にはこんなことがあって、成長過程でこんなしうちをうけて、わたしはこんなふうな努力もして……といったような自己告白にむかう近代的な衝動もみられないし、物語によくみられがちな免罪的モノローグに向かおうとする語りへの欲動もみられない。なぜなら、語る動機も語られる罪悪もそこにはないからです。
わたしは病んでいるとはおもってないし、目の前にいる好きな男の子もわたしのことを病んでいるとはおもっていない。
つまり、タイトルの『変わってるから困ってる』ということばとは裏腹に、実はどれだけ負の刻印を帯びていてもそんなに《困っていない》状況を淡々と描き出すのが藤枝さんの魅力だと思います。





藤枝さんのイラストサイン。