鬼をみていた。
マッシュポテトにできるぐらい人がごったがえすスーパーマーケットでわたしは鬼をみていた。
鬼はうずたかく積み上げられたアボカドのなかになかばうずもれながら足をかかえ、うずくまるようにして、じっとしていた。ひとを取って喰おうとする気配はみじんもなかった。なんだかそれが逆にとてもこわかった。
わたしはときどき鬼をみる。
弁当屋で惣菜をつめているときも
人いきれのする交差点で信号待ちしているときも
わたしは、鬼をみる。
かれらは所在なげにしている。哀しみがわだかまって具象化されたらあんなふうになるかもしれないと、わたしは思う。
鬼はわたしたちをみない。きっと鬼は私たちのことを知らないのではないかと思う。
鬼はいつまでもひとりでうずくまっている。まるで崩れ損ねた崖のようだとわたしは思う。