外に出るときは鍵をかけずに出ていくが、家にいるときは必ず鍵をかけている。
家にいるときがいちばんこわい。勘のよくない泥棒が入ってきたらどうしようとたえず恐怖におびやかされている。
わたしの武器といえば、シャワーカーテンをかけるための、伸びるつっぱり棒だけだ。もし押し入られたら、とっさにそれを伸ばし、わたしは戦わねばならない。だからわたしは日ごろからとっさに伸ばす訓練をしている。そのスキルがほかにいかせるのかどうかわたしは知らない。
また、本棚を組み立てたときになぜか余ってしまった木材という武器がある。これはとても堅固な武器だ。だが、あまりに、短い。だから、これはいざとなったら投げるしかないだろう。それにしても心配なのは、ずっと、かしいだままの本棚である。
最後の武器にハッピーパウダーがある。ハッピーターンからかきあつめ続けたハッピーパウダーのこぶくろを泥棒に投げつけよう。あとはチェーホフ全集を投げつけよう。40巻ぐらいあったとおもう。
チェーホフがいっぱい書きつづってくれたからこそ、わたしはきょうも安心してもしものときにそなえることが、できる。