大学の頃、私は落研に入っていた。
御前駄阿太汰(おまえだ・あたた)という名前を先輩から譲ってもらい、大学の四年間、「時そば」だけをやっていた。
一回だけ、好きだった女の子がみにきたときがあった。
高座をおりたわたしに先輩が、「ドキドキそば」だったね、といった。
でも、わたしは、なにもいいかえすことができなかった。数をかぞえることしか、できなかったのだ(だから、「時そば」しかできなかったのだけれど)。
つまり、
ひいふうみい……いま、なんどきだい?
しかし、そのときの寄席で、聴衆にすきな女の子がいたのを発見したわたしは、あわててしまい、数をかぞえまちがえた。
かぞえそこね、ずっと、ひいふうみい、ええとねえ、あのねえ、そのねえ、ひいふうよつむうひいふうひい、とめちゃくちゃに数えつづけたのである。
だから、そのときのそばは、とても高値になった。なんにも、どこにも、おとせなかった。