きょう、靴底が、
かぱっと抜けたひとがいて、
どういう顔したらいいか
すごく迷った。

そうかあ
靴底ぬけるかあ
とか思って。
そんなときの顔の演習は
人生でしなかったなあ
とか思って。

たとえばね、
カフェで、おつにすまして
古代の言霊(ことだま)かなんかのことについて
話をしているときとかってあるじゃないですか。
で、あいてが
アイスティーでも飲もうかなと思って
そのまま話し続けながら
グラスを口元にもってったら
ストローが鼻んなか入って
俺は気づかないふりをしているんだけど
すげえお互い気まずいときの顔ってのは
人生で演習してたんですけど、
靴底はなかったなあ。

そうかあ
ぬけたかあ
靴底

あの、
あれもありますよね
電車のつり革とかを、
本読みながらつかもうとして
つかみそこねて
空(くう)をひっかくやつ。
あれはね、
もうね、むしろ空(そら)をひっかきたかったんだ、って顔してればいいとおもうんですよ。
いたるところ、空(そら)ですから。
仏教語で、色即是空ってことばあるじゃないですか。
いっさいは空(くう)っていう。いっさいは生々流転する、実体の《ない》ものだっていう意味の。
でもね、それ、ちがうんです。
あの《空》は、くう、じゃなくて、
実は、あれは、そら、です。
青空、のことです。
だから、色即是空って、
全世界は青空だよね、って意味です。
靴底ぬけたら、空が漏れるんです、
青空がふきだすんです。
そうゆうことです。