むかし、
原稿用紙で20枚ぐらいの恋文をおくったら、
短く要約してきて、
と、つきかえされた。
わたしは、
じぶんの恋文をもういちど読み直し、逆接の接続詞や筆者(私)の主張に注意しながら、要点をまとめて、もういちど彼女のところに恋文をもっていった。
ねえ、短くまとめてきてっていったのに、またさいごになんか数枚くっついてるけど、これはなに?
と、彼女が、いう。
いや、あの、あとがきエッセイなんですけど、
とわたしはいった。
いや、あの、恋文にあとがきとかいらないから、と彼女が、いう。
あ、そうなんすか、とわたしがいう。
もいっかい、10字以内でまとめてきてくれるかな、と、彼女がいう。
わたしはまた家にもってかえって、おいおいこの想いをどうやって10字以内にまとめろっていうんだよ、とあたまをかかえた。《あなたのことがすきだ》という想いを、10文字で伝えることなんてできるのか。ばかもやすみやすみいえとおもった。どうしたって70字ぐらいはいる。たとえば、《あなたはいまこの手紙を読みながらどのような想いでいるだろうか》というワンクッションの一文はかならず入れたかった。しかしこれだけでもう10文字オーバーだ。
《あなたのことがすきだ》
このたった10文字の想いを伝えるのに、10文字以内でまとめてこいなんて、なんて思いやりのない女なんだろうとおもった。
結果として、わたしは、恋文をマンガにして、もういちど、もっていってみた。つまり、行き詰まりをウィットとエスプリの効いた方向転換で突破しようというこころみだった。最後のコマでは、わたしがずっこけているという最高のオチがついているマンガだ。
彼女はわたしが書いた恋文マンガを一瞥(いちべつ)すると、こういうことじゃないから、といった。
わたしは、ずっこけた。
またね、と、彼女はいった。三文字以内の、想いだった。