すきなひとがつけてたかおり、
ってありますよね。
なんかこう、ショッピングモールとかを、魂がぬけたようなかんじでゆらゆらあるいてると、わしづかみするように、かおりがわたしをキャッチする。
ああ、あのひとのかおはもうおもいだせないのに、かおりだけはちゃんとおぼえてたんだな、とおもう。
ぬくもりと戦慄のしゅんかんです。

あのー、たくさんの木の棒を、わっしゃーとガラスのつぼにつっこんで、香りかもしだすやつあるじゃないですか。あれなんていうんですか。あの木の棒を三本たばねてひとりなら折れないがさんにんなら折れるみたいな教訓話ありましたよね、たしか。そのときのあの棒ですよね、あれは。
で、そういう部屋の芳香剤、うってる店とかとおりすぎるとき、ふっと薫って、
あーあのひとのつけてたやつこれなのかなーとかおもって、
買おうかなーとかちょっとおもうんだけど、
でも、そんなんへやのかおりにしたら
もうせつなくてかなしくてしょうがないじゃないですか。
おもいはあふれるわ、そのひとはいないわで。
だから、まあ、かわないんだね。

でもさ、かおりってなんかすごいよね。
おぼえようとしなくてもおぼえてるんだから。身体に書き込まれてるんだよね、かおりって。他者のかおりって。

すきなひとのかおりって、
たぶん、ひとって
一生涯わすれずにいきてくんだよね。
で、そのかおりが、
ふっと、はなをかすめるたびに
おもいだすんですよね。
かおりはおそろしいね。
わたしやあなたがしんでも、たぶん、かおりだけは、なんびゃくねんも、いきていくんだろうから。
そうして、また、だれかがそこにおもいをかさねて書き込んでいくんだろうから。

でも、なんびゃくねんごとかでも、
ふっと、まちかどで、あ、あのひとのかおりだ、とかおもいながら、たちどまりたいですね。そのときはいきててもしんでもなんでもいいから。かまわないから。