なんか、こう、いわれたことがある。

あのー、御前田さん。
本を読んでるすがただけ、いーですね。

かのじょはそういうと、去っていった。

本を読んでるすがた、だけ。

もしぼくがきみとデートしたら、
ぼくは夜景をみながら本を、
ディナーを食べながら本を、
メリーゴーランドに乗りながら本を、
東京タワーの最上階で本を、
キスしながら本を、
読まなければならないだろうか。
わたしはおいかけていって、
彼女の肩をつかみながら
そう叫ぼうとした。
わたしはあなたに大事なことをいうときも
あなたの眼をみず、本を読みながら
すきです、といわなければならないのでしょうか、と。
彼女は、いう。
でもとりあえずいま本読んでないじゃないですか。
わたしは、はっとする。

彼女は、
本なんかあまり読まなそうなひとと
結婚した。
しあわせそうだった。
わたしはその日、本を読まなかった。
いや、ちょっとだけ、読んだ。