いちねんじゅう、そばのかおりがするので、なんだかそばのかおりがするな、とわたしはおもった。
そばのかおりのする女性だった。
それは、かのじょの髪から、ただよっているようだった。香ばしい、かんばしい、かおり。
そばシャンプーなるものがあるのだろうか、とわたしは、おもった。そばコンディショナーでも、いい。そば洗い流さないトリートメントでも。とにかく、きっと、それは、ノンシリコンになるだろう。
ともかく、そば。ぶっちゃけ、うなじに顔をつっこんで、決定的なまでに、そば嗅ぎそうになった。顔をつっこんだあとで、わたしは、おもうのだ。間違いない。これは、そばだ、と。そば以外のなにものでもないんだ、と。要するに、そばなんだ、と。

ある日のランチタイム、わたしは、スタバで、スチームミルクを飲んでいた。となりでは、OLが婚活のはなしをしていた。わたしは、ぼんやり、のんでいた。となりのOLたちは、ああどうしよううれしくてたのしくてねむれないね、とさんざめいていた。さんざめいているなあ、とわたしはおもった。ねむれないほどしあわせなことってさいきんあったかなあ、とも。
そのとき、わたしは、あ! とこえをあげた。スタバにいた全員がわたしをみた。気まずかったので、だれかいるの、というかんじで、わたしは、うしろをふりかえった。おれのうしろにどんなすごいやつがいるのか、と。

昼休みがおわって、わたしは女性のいるデスクに近づいていった。かのじょに以前から貸してあげる予定だった村上春樹の本をかきいだきながら、わたしは女性のもとにいった。そして、わたしは、言った。

そばがらのまくらをつかっていませんか?

はい、
と彼女は、いった。

それだけである。
わたしは、村上春樹の本を、てわたした。
うけとったかのじょが、
すこしだけ、ほほえんだので、
そばのかおりが、ほんのり、かおった。