パフェ。

わたしは、
すいもあまいも
めちゃくちゃにつめこんだ人生が
溶けるようになだれていくのを
あっちからこっちから
つつきつつ、つっこみつつ
ときにうけとめ、すんでのところで
すくいとめ、ときにこぼれおちるどろどろのチョコレートをみおくりつつ、
それでも底の底からえたいのしれない「なにか」が飽きもせずわきあがってくる、
わたしはおどろいて、まえにいるゆうじんに、いう。
ねえ、まだ、なんかある!
そんなものが、パフェなんだと、おもっている。
それらのいっさいがっさいをまるごとほおばりこむのがパフェなんだ、と。

むかし、
怒ったかおをして
パフェをたべるおんなのこのまえで
かなしいかおをして、
パフェを、たべていたことがある。
かのじょは、留学生だったのだ。
だから、わたしはなぜ、かのじょが怒っているのか、わからなかった。ききようもなかった。
わたしたちには、〈ことば〉がなかった。
そのとき、わたしたちのあいだにあったものといえば、パフェだけだった。共通のチョコレートや生クリームはあっても、かすりあうことばのいっぺんさえも、もたなかった。
わたしたちは、パフェをたべつづけた。
店のどこかで歓声があがっても、ウェイトレスが盆を落としても、わたしたちはただだまって、たべつづけた。
かのじょは怒ったかおをして。
わたしはかなしいかおをして。
すくっても、すくっても、
パフェは、おわらなかった。
このままパフェをつついたまま人生がおわるんじゃないかとさえ、おもった。
ふいに、
それでもいつか、きっと、パフェですよね、
とわたしは、いった。
かのじょは、だまって一瞬わたしをみたけれど、またたべつづけた。
わたしは、奥深い森にある洞穴のようなパフェの底をみつめながら
それでもいつか、きっと、パフェなんだよ、
と、もういちど、おもった。