人と、動物園に行く。


人は、空ばかり、みている。


動物園でみる空は、まるいです、


と人が、いう。動物園は空をみるためにあるのだと


いわんばかりだ。わたしは、そんな人を、みている。


そしてそんなわたしたちを


おびただしいペンギンの群れが、


氷山のかげから、じっとみつめている。


電車を待っているみたいだ、とわたしは


ペンギンたちをみつめていう。


週末の終電を待っているんでしょう、


と人が、いう。やがて、あの氷山を割って、


電車がはいってくるのです。


ペンギンたちはぎこちなく体を左右に


ゆらしながら、電車に吸い込まれていく。


かれらは、かえるのだ。


そして、もう、かえってきは、しない。


わたしには、それが、なんとなく、わかる。




夕暮れてしまった動物園で、


猛獣たちの鳴き声にうめつくされながら


わたしたちは、立っている。


世界の端からふきこぼれてしまった


哀しみと怒りを煮詰めて


たけりくるう猛獣たちのおたけびを


ききながら、わたしと人は動物園に


たちつくしていた。


これからいったいどんなところにいくんだろう、とわたしはおもった。


でも、いったいいまじぶんたちが


どんなところにたっているのかさえ


わたしには、まるっきり、わからなかった。


わたしたちの眼の前では


岩礁のようなパイソンが


けだるそうな巨躯をほこらしげに


うちすえている。古い城のようだ、とわたしはおもった。




人が、いった。さあ、いきましょうよ。


まだ、おそくは、ないから。


そういわれて、わたしは、あるきはじめた。


わたしも、また、一頭の動物のなりをして。


さいごのひのひかりが


握りしめられたようにきえゆくまで、


わたしたちは巡礼者のように、動物園を、うちあるいてる。