人と水族館に、いく。
人は、魚よりも、ずっと、水をみている。
こんなにもおびただしい量の、圧倒的な水が
人の眼前にひろがっている。
パノラマとしての、立方体としての、
絨毯としての、空としての、水。
人は、水に、おどろいている。
人が水をみているいっぽうで、
わたしは、リュウグウノツカイやオワンクラゲを
みている。人は、わたしの手や髪の毛をひっぱりたげに
気色ばんで、いう。
水です、と。わたしは、返していう。ああ、水です。
水族館から出ると、
遠方に海がみえた。
わたしたちはこんなにも遠くまで
やってきてしまったのだ。
そしてそれだけの行程をかさねてなお、
あの海にさえたどりつけない。
わたしは、人をみた。
また、水がある、と人がいう。人は、おどろいている。
あれも水です、とわたしはいう。水ばかりです。
水ばかりなんです、とわたしか人がいう。
海が炭酸水にみえるような気がしないでもない、
と人がいいそうになったので、
わたしは、もういちど、水です水なんですよね、
と息せき切って、あなたに、いう。