あなたがさしだした手を

わたしはいつかわすれるんだろうか。




手はいつだって意味が豊饒だ。

どんな手でも過不足なく解釈にあてはまる手なんて、ひとつとしてない。

くみつくせる手なんて

この世界にはひとつとして

ないのだ。




手は、読み終わることのない小説だ。

手は、そのつどあたらしく書き直される本みたいなものだ。

手も本も、

とじつ、ひらきつ、することで、

たいせつななにかをつないでいくのだ。




わたしはそのとき

あなたの手をみていた。

ガサガサした紙袋のような手だった。

つややかでも、やわらかでも、なかった。

あたたかくもなく、詩的でもなかった。

でもそれはそのときわたしにむけて

差し出された手だった。

わたしはけっきょくあなたのことは

なにひとつとしてわからなかったけれど

あなたの手だけは

だれよりも、よく、わかっていた。