きのう、古道具屋でシルクハットを買った。
店の主人がたまりかねたようすで、あんたこれどーすんの、といった。
わかりません、とわたしはいった。

いきていると、
わからないことは、たくさんある。
わたしは水槽のとなりにシルクハットをおいて、どうしてあのひとから手紙がこなくなったのか、かんがえてみる。
さいごの手紙にはなんと書いてあったか。
てめーは一生ムーミン谷にいろ、だったか。

ときどき、シルクハットをかぶって、電話にでてみる。
きょうはなんだかすこしようすがちがうみたい、と友人は、いう。
はじめて空をしったさかなのような声をしている、と。
ふうん、とわたしは、いう。
その、ふうん、の声さえもが、友人にはちがったかんじとなって、耳にとどく。

シルクハットをかぶって、外を歩く勇気は、まだ、ない。
電話が、鳴り出す。わたしは、おきあがる。あしたになったら郵便受けをひらいてみるかな、とわたしは、おもう。
電話のベルのなか、水槽のとなりにしずかにたたずむシルクハットは、なんだか、鉢植えのようにも、みえる。