むかし、手紙に、
あなたのよいところは、と書いてあって、
わたしはわたしでそのとき絶望し、寝込んでいたので、
むさぼるようにそのトピックにとびついた(というかとびこんでいった)のであるが、
手紙には、こう、書いてあった。
あなたは歩きながら、ちょいちょいなにかに触るのが得意です。
なにかを感知するように、てあたりしだい、そこらじゅうのものを
さわりさわり歩いているのを、きっと、きづいていないでしょうが、
まあ、あなたはそんなふうに歩いているのです。
あなたがレジで並んで待っているときに、
あなたは、つ、と、レジわきに常備されていた
逃走犯に投げつけるためのカラーボールに、触れましたね。
わたしは、その共鳴しあうような、さわりかたを、
とおくから、ふっと目撃し、なかなか、感激しました。
なかなか、さわりっぷりが、いいです、しずかに。まるで種をうえるような感じで、
あなたは、しずかに、おもむろに、さわっていました。大地の恩恵を触知するような風合いで。
それから、つけたすことになりましたが、
あなたが髪をぎゅっとおさえながら、スパゲティソースをしんけんに選んでいるのが
なかなか、よかったです。あなたはときどき髪をぎゅっとおさえて、たちつくしていることがありますね。魂ががらんとぬけたような顔して。
手紙を読み終えたわたしは、うーん、とうなった。
いったいなんのことだよ、と、おもった。