友人とケンカになったことがあって、
それは街中をあるいている最中だったのだけれども、
あのねえ、存在の輪郭の! とわたしはいいかけて、
あらら、と、おもった。
その友人からプレゼントしてもらったTシャツを、わたし、着ていた。
存在の輪郭どころではなかった。じぶんの輪郭さえ、もう相手にあずけていた。
でも、それだけでも、なかったのである。
なんていうか、わたしは、友人からもらったデニムまで、はいていた。
つまり、なんていうか、友人からもらいましたコーデ、で
そのとうの友人とケンカしようとしていた。
なんていうか、なんていうか、と、わたしは、おもった。
さいしょから負けているじゃないかこれ、と。
しかも、鞄のなかには、友人からもらった
バースデーブックさえ、入っていた。電車に乗りながら、
あきじかんにたのしんで、読んでいたのである。鼻歌さえ、うたいながら。
その日、わたしたちは、だまって、街をあるいた。
わたしは、友人を着込んでいるという感覚が、ずっと
あたまから、離れなかった。でも、それはわるくない気分だった。
とうとつに、やわらかく、雨が、ふりしきった。
それが服をしめらせても、わたしは、へいきだった。
わたしたちは傘も、ささなかった。
わたしは、いつかこのことをなんでもいいから書きつけようと、おもった。
でも、そうしなくてもこの日のことはわすれないだろうなということが、
わたしには、わかっていた。
わたしは、たちどまらなかった。わたしたちは、あるきつづけた。