わたしには、
山田もんてねぐり、
という友人が、いた。
はじめて名前を聞いたときは、名前を聞き返したものだ。
なにかの冗談なんだろうという感じで。
だが、かれは、こういった。
わたしの名前は、山田もんてねぐり、だと。
その、どう呼べばいいのかな、とわたしが返して、いう。
かれは、やさしく答えていう。山田、と呼べばいいんじゃないかな。
その夜、わたしはねむる前に、すこし、かんがえた。
せっかく、もんてねぐり、という名前がついているのに、
山田と呼ばなければならないなんて、すこしいやだな、と。
そして、わたしは、ねむった。
さるかにまた花子、
という女の子にであったことも、ある。
綺麗な顔をしていた。たとえば泉に花を散らして三時間たったような
そんな顔をしていた。わたしは、そういう顔が、すきだ。
さるかにまた、なんて、なにかの冗談かもしれないとも思ったが、
深くは聞かなかった。
わたしはバスにゆられ、ゆめうつつに、おもった。
彼女の名前は、さるかにまた花子。
山谷(まうんてんばれえ)かおる子じゃなくてよかったじゃないか、と。
わたしはうしろの乗客にも、そんなふうにいいたい気分だった。
まうんてんばれえ、じゃなかった。さるかにまた、だったんですよ、と。
でも、それはせずに、わたしは眼をとじた。なんだか、すごくいい気分だった。
バスの後方から、花のかおりが、流れてくるのを感じながら、
その日、わたしは家に、帰った。
政所(まんどころ)恵子、というひとを、好きになったことが、あった。