彼女いない歴=年齢・26歳の彼女できるまで日記





 僕はそういった生き方を取ろうと

 努めてきた。

 おかげで他人から何度となく

 手痛い打撃を受け、欺かれ、誤解され、

 また同時に多くの不思議な体験もした。

 様々な人間がやってきて僕に語りかけ、

 まるで橋をわたるように音を立てて

 僕の上を通り過ぎ、

 そして二度と戻ってはこなかった。

 僕はその間じっと口を閉ざし、

 何も語らなかった。

 そんな風にして僕は

 20代最後の歳を迎えた。



  村上春樹『風の歌を聴け』




 *



<Haruki Murakami, HEAR THE WIND SING>



 村上春樹『風の歌を聞け』







彼女いない歴=年齢・26歳の彼女できるまで日記









The spring of my fourteenth year

--unbelievable as it must sound--

I burst into speech as if a dam had broken.




 14歳の春、

 ――信じられないと思うけど――

 ダムが倒壊したかのごとく

 私は、出し抜けに、話し始めた。






I have absolutely no memory of what I said,

but I talked a storm for three months straight,

trying to fill in a thirteen-year void,

so by the time I'd talked myself out

in the middle of July

I was running a hundred-and-four-degree temperature

and had to take three days off school.




 何を話したかということについてはまったく記憶がない。

 しかし、私は、三ヶ月間続けて

 むちゃくちゃに話しまくった。

 三年の空白を埋めるようなそぶりだった。

 私自身をすべてしゃべりつくしてしまった

 七月半ば、

 私は摂氏40度の熱を出し、

 学校を三日間休まなければならなかった。






When the fever subsided,

I was neither speechless nor talkative,

just your ordinary boy.




 熱がひいたときには、

 私は寡黙でも多弁でもなく、

 単なるふつうの少年になっていた。



 *



訳出部分の、

発話・言語・ロゴスへの

違和=異和、異化、脱親和化=脱神話化


はオースターの言語観に

通ずるものがあると思う。

「ゴドーを待ちながら」のラッキーもそうだが、

過剰な発話が、


言語のシンタクスやパラディグムを


ずたずたに、切り裂いていくこともある。

ロゴスへの違和は

過剰な嗜眠から身体論的に


侵攻することもある。

そういった点で、春樹の「眠り」は

すごくよくできた短篇。



食わず嫌いで春樹を読まないひとが

いるけど、

それはわかるし、

自分もそうだったのだけれど、

でもやはり教えられるところや

救われるところは多いので

冒頭やラストなど

少しずつかじっていく感じで

読んでいってみたらどうだろうか。

もしくはカーヴァーから入ってみるとか。

けれども、逆に

何をきいても春樹一点張りのひとは

あまり信じない方がいいと思う。

コンビネーションをはってこその

作家だとわたしは思うんだが。