人の心を海とするならば、きっとその水は淀んでいる。


水面のさざ波に名前を付けるならそれは喜びなのか、怒りになるのか。いや、この海はそんな言葉では浅すぎる。この深い水底に何がいるのか知りたいなら、淀みの中で目を開けて、下へと冷たくて重い水を蹴り続けるしかない。

自分という人間を知りたいなら、例え底が無かろうと…


まず、同じ銀河に生まれたこと。

同じ種に生まれ、生きる時間が重なること。

人と人が出会うことも奇跡的な確率。

笑うことも、悲しむことも、恋も、みんな1%の可能性の集まりだから僕は、目が眩む。
世界はこんなにも色とりどりの奇跡に溢れている。

クジラがジャンプする。
彼の思いっきりの高さ。

水面を突き抜けて一番上からまた上へ。

彼の目に空への憧れはあるのだろうか?

もしも、空さえも頂点ではなくそのずっと上、無限に広がる宇宙の煌めきがあると知ったら彼は、もっと上へと願うのだろうか?

それが何の為と分からずとも、生き物達はジッとしていられない。

そわそわとせわしなく、心臓が…
動いている。

今になって思うとあの日、俺は夢を語りたかったわけでなく……
だからこそ父に、おそらく最初で最後であろう小さな反抗もしたんだろう。

外へ出なくては。

母の体の外へ出て初めて空気の冷たさと人の手の暖かさを知ったように。

父の腕に抱かれ連れられた部屋の外で空の高さと、世界の大きさを知ったように。

毎日のお決まりの道の外で、聞いたこともない自分自身の笑い声を知ったように。

外へ。

まだ知らぬ、何かを知るために。

また一歩外へ。

君の近くへ。

随分遠くに落ちたみたいだ。消え入りそうで後付けのような雷鳴を。

平地の避雷針は聞こえなかったと首を振る。

「雲の中に隠れないで」

「私の上へ墜ちてきて」

うるさいくらいで丁度いい。

目の醒めるような稲妻を…
私の心に突き刺して。

恐いのは私の方。

木一本とないこの平地で、私に逃げ場はないのだから…


fin