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2026年4月20日読売俳壇津川絵理子選5席の句に、障碍を抱えた娘が初めて二語文をしゃべった日のことを思い出しています。
たんぽぽや幼はぽぽと言葉増ゆ 相模原市 守本ありえ
たんぽぽは、名前も花もかわいい。子どもたちが見て、すぐにその存在に気づき、その名も発音しやすい花です。
「ぽぽと言葉増ゆ」の結句がかわいいです。
以下、手記『お月さん、とんでるね 点頭てんかんの娘と共に生きて』(銀の鈴社)より、「初めての二語文」を引用します。
保育園に通い始めて、二年が過ぎようとしていました。私のお腹もずいぶん大きくなり、歩くのがしんどくなっていましたが、保育園まで、ひな子といっしょに歩いて通っていました。ひな子は、四歳半になり、足取りもずいぶんしっかりしています。
ある日のことです。保育園の近くの梅林を過ぎた辺りで、ひな子が急にしゃがみこみました。また、抱っこをせがむのかと思って、近寄ってみると、
「ンポポ、イレイ」
と、小さな声で言いました。あまりに小さな声でしたので、一瞬、何と言ったのか分かりませんでした。
ふと、しゃがみこんだままのひな子の足下を見ると、アスファルトの隙間に小さなタンポポの花が一輪咲いていました。こんな所に、どうやって根付いたのでしょうか? アスファルトの路面に小さな葉を精一杯広げて、鮮やかな黄色の花を咲かせています。
「ンポポ」
ひな子は、その小さな花を指差しながら、私の顔を見上げました。
「ああ、ひなちゃん、今、たんぽぽ、きれいって言ったのね!」
私は、思わず、大きな声で言いました。
「ンポポ イレイ」
ひな子は、立ち上がって、もう一度同じことばをくり返しました。母親の私に分かってもらえたことがうれしかったようです。それにしても、「きれい」ということばをどこで覚えてきたのでしょうか? どこにでも咲いている小さな花に目を留めて、「きれい」と立ち止まるひな子の姿に強く心を打たれました。ひな子が初めてしゃべった二語文を、とてもすてきなことばだと思いました。
「ひな子は、すてきなおねえちゃんだよ。君が生まれてくるのを楽しみにしているよ」
私は、お腹の赤ん坊に声をかけました。
一九九〇年三月、五歳年下の弟が生まれるほんの少し前のことでした。私の心の中で、その時のたんぽぽの花は、今も小さな宝石のような輝きを放っています。
