作詞家小倉めぐみさんを偲んで。
つづきです。
SMAPのデビュー当初は(2年ぐらい)大変苦戦した、という音楽プロデューサーの野澤さんの話を前回引用しましたが
時代が段々SMAPに寄ってきたというか、時代の風を彼らが掴むのが上手かったのか。
白馬に乗った王子様になれなかった6人は
そのカジュアルさ、ヤンチャさ、そして親しみやすいオシャレ感を武器として、今までにいなかった「等身大」の若者としての新しいアイドル像を作りつつありました。
それがとても新鮮だったし
従来のファン層の女子中高生だけでなく、年上女性にも「何、この子達。ちょっといいじゃない」と思わせるような方向に、活動の舵を切ってきたのはさすがのマネージメントというべきか。
(中居君いわくの「子どもだましじゃない、大人も騙せるアイドルになりたい」って言ってた時期)
とりわけドラマ班と呼ばれた3人(木村・稲垣・森)の醸し出す空気、ニュアンス、ビジュアルは
OLや主婦層にも訴求する力抜群だった・・・っていうのはモロにハマった私の実感(笑)
そんな注目をまさにタイトルに引っ提げて、発売されたのがアルバム「006」
その名も「SEXY SIX」 そのままズバリSMAPは「セクシーな6人組」ってことですよ
今でこそ、Sexy Zoneっていう後輩グループもいますけど
当時アイドルが「セクシー」を売りにするなんてこと、前代未聞だった。
性の匂いを封印しているからこそ、諸先輩方は永遠のピーターパンみたいな立ち位置でアイドル活動が出来ていたわけで
SMAPはそこから飛び出して、生身の青年の色気をアピールしてくる戦略に出たのがまあ、びっくり。
そしてただビジュアル面のセクシーさを売りに出すだけじゃなくて、作られる「音」もアイドルの域からはみ出した最初のアルバムが、この「006」だったと言われていますね。
CDジャケットを見ればわかるように、撮影とレコーディングは全てニューヨークで行われたとか。
レコーディングに参加したのは海外の超一流ミュージシャンの方々。
このアルバムをきっかけに、アイドルに興味のない音楽ツウの人達もSMAPの音楽に「おっ!」と目を留めるようになったとも言われてます。
実際私も、このアルバム「全然アイドルっぽくない!」と驚いたし、ブラックミュージック系をよく聴いていた私の好みにめちゃくちゃヒットしたアルバムでした。
その中で小倉めぐみさんが詞を書いた曲というのが・・・
【それが痛みでも】 (アルバム006「SEXY SIX」収録 木村・森デュエット曲)
【働く人々】 (アルバム006「SEXY SIX」収録)
の2曲。
当時は小倉さんが書いたということは意識してなかったけど、それを差し引いてもこの2曲はめっちゃくちゃ大好きな曲!!今でもしょっちゅう聴く曲です。
【それが痛みでも】はとにかくエッジの効きまくった曲で・・・
スピード感溢れるたたみかけるような曲調もイイけど、歌詞がまあ、凄いからね↓
冒頭から
>よその国の平和のために スケートをした
彼女の顔を見て 感動していた
まずい食事(ごはん)じゃいやだよなって ちょっと思った
自分の顔を見て 貧しい気がした
ですからね・・・
前記事で【どうしても君がいい】の歌詞の中に「テレフォンカード」のことが出てきて、時代だなぁと思ったこと書いたけど
この冒頭の歌詞も、当時リアルにあの時代を知っている人にはめちゃくちゃ刺さる内容・・・
「よその国の平和のために スケートをした彼女」
というのは、女子フィギュアスケートのカタリナ・ビット選手(ドイツ出身)のことで
サラエボ、カルガリーの冬季五輪二大会連続で金メダルを獲った圧倒的カリスマスケーターだった人です。
その後彼女はプロスケーターに転向して、競技選手としてのピークは過ぎていたんですが1994年に開かれたリレハンメル五輪で、再び五輪の舞台に立つことを決めたビット。
その時彼女がフリーで滑った曲が反戦歌の「花はどこへ行った」という曲で
それは、当時ユーゴスラビア紛争で、自分が金メダル獲った思い出のサラエボの地が戦火に巻き込まれて破壊されたことを憂いての行動、平和への願いを込めたスケーティングだったのですよね。
結果は7位に終わったけれど、彼女の凛としたスケートは私の記憶にも残っています。
「まずい食事(ごはん)じゃいやだよなって ちょっと思った」
については1993年の記録的な冷害による米不足で(平成の米騒動と言われた)
全国的に日本米の流通が滞ってしまって、一般家庭にお米が手に入りにくくなったという、今思えば信じられない出来事があったのですよね。
(日本米、あるにはあったけど値段が凄く高騰していたから)
そこで日本米の代替えとして政府が安価で流通させたのが輸入した「タイ米」で。
我が家も一時タイ米使っていた覚えがあります。
でもタイ米って、インディカ米という品種で(日本のお米はジャポニカ米)味や匂いが日本の米とはまったく違って、どうにもこうにも、食べづらくて・・・かなり参った。
で、それがこの
「まずいごはんじゃいやだよな」に繋がるわけで・・・
>よその国の平和のためにスケートをした
>まずい食事(ごはん)じゃいやだよなって
これ、まさに当時の世相を鋭く切り取った、めちゃくちゃ社会的なメッセージソングなわけで・・・
こんな曲、アイドルに歌わせますか?
と、相当ビックリしたよ・・・
2番の歌詞はもっとエグい。
>コビなんか売りたくないって思っていたら
礼儀を覚えるのを忘れた気がする
>まずい歴史は教わらずに知らないままで
陽気に暮らしている 平和じゃ虚しい
東南アジア諸国に対する教科書問題とか、「ゆとり教育」の弊害とか?
日本人の在り方にまで疑問を投げかけるような、風刺の効いた歌詞に心底驚いたし
これ大丈夫なの?と思うほどトンがりまくってる曲だわ・・・と思いました。
小倉さんの時代を見る目の厳しさをこの曲で知ったような気がします。
それをね
SMAPの誇るセクシーツインボーカルの木村・森の2人に歌わせるとは・・・!
凄いことするなぁ・・・と恐れ入りました。
あ、ライブ衣装の衝撃(黒短パン)は、また別の次元のインパクトなので、ここでは割愛しますが・・・いや、この歌(内容)で、あの衣装って・・・カオスでしかないし(苦笑)
そしてもう1曲が
【働く人々】 私、このサウンドが大好きで!
ファンキーでソウルフルで、すごく洋楽っぽいじゃないですか。
海外の一流ミュージシャンの演奏だけあって、インストゥルメンタルとしても最高の1曲!
なのにさ
それにさ
〈勤労青年の日常生活〉な詞を乗せるって、どーいうこっちゃ!?
「働く人々」って、タイトルも捻りなくそのまんまやないかーい!→働く人々~Uta-Net
と、のけぞりそうになった曲でもあります(爆)
このサウンドに合うようにもっとアメリカンなカッコ良い詞で、まったく違う世界観も作れたはずなのに・・・
ここでも敢えて「日本の若者のリアル」で勝負した小倉さんはじめ、制作スタッフの挑戦には感服します。
でもそれが一周廻って、めちゃくちゃカッコイイ!
と思える曲ですね。
>明日のために 働こう
ちょっと眠いけど
自分のために 働こう
それが人の美しい道だ
というフレーズは、人が社会で働くための真理を突いているよねぇ・・・
凄い、本当に凄い。小倉さん。
このあたりから、SMAPってタダモノじゃないぞ。
みたいな空気を世間が察知し始めたと思うんですが、この後SMAPは小倉さんの作詞したシングル曲で怒涛の攻めを見せるのですよね。
次はそのことを書きます。
つづく