「・・・なんでこんなことに」
 
中居はリビングのソファに座りながら、呆然として何度もその言葉をつぶやいた。
吾郎の家に泊まったという事実は、中居にとってかなり衝撃的なことだった。
「ゆうべのこと、どこまで記憶あるの?中居君」
吾郎はいたって平然として、ダイニングテーブルにお皿を並べながら話しかける。
Tシャツにスウェットという楽な部屋着で、軽く流しただけであろう、クルクルの巻き毛の髪・・・つまりまだ全然営業用になっていない、まったく無防備な稲垣吾郎がそこにいた。
 
「ゆうべ・・・?」
「6人で食事したのは覚えてるでしょ?」
「・・当たり前だ。森の祝勝会だったじゃねぇか」
そうだ。
6人目のメンバーで、今はオートレーサーとして活躍している森且行。
その森が、先日悲願のSG初制覇を果たしたので、メンバー全員が集まり優勝を祝う食事会を行なったのだった。
 
毎晩晩酌を欠かさず、酒には強い中居のはずが、昨夜はちょっと様子が違った。
最近長時間の特番が立て続けに入り準備等で寝不足だったことで、自覚のないまま疲労が蓄積されていたことと
何より森がようやく夢を叶えて、そしてそれを全員で祝えたという事実が心の底から嬉しくて、中居はいつもよりもかなり早い段階から酔ってしまい、ほとんどの記憶が曖昧になっている。
 
「ふ~ん。じゃあ、二軒目のカラオケで『BEST FRIEND』自分で入れて号泣してたことは?覚えてる?」
「・・・それは、何となく」
そこだけは、記憶が鮮明だった。
「あ、覚えてるんだ。店に入るなり真っ先に自分であの曲入れて、僕らに歌わせといてオイオイ泣いてたもんねぇ」
「…それ以上言うな」
段々恥ずかしくてたまらなくなる。
「テレビで見てた5人旅の時とおんなじだって森くん笑ってたよ」
「…うるせぇよ」
頭が痛くて、吾郎の言葉を遮ろうにも力が出ない。まったく最悪だ、と中居はため息をつく。
「これ、飲む?」
吾郎が中居にコップを持ってきた。
「何?」
「トマトジュース。二日酔いに効くよ」
「・・・お前、いっつもこんなの飲んでるのか?」
吾郎の手から、ジュースの入ったコップを受け取る中居。
「いつもじゃないけど。野菜ジュースは朝飲むといいんだよ」
仕方なくそれを飲み干す中居。
「うぇ・・・モロ、トマトじゃん」
顔をしかめる中居に、笑う吾郎。
「そりゃそうだよ。フレッシュトマトジュースだもん。中居君もさぁ、いい加減健康に気をつけた生活した方がいいよ。もうおじさんだからね」
「だから、うるせぇよ・・・」
更に力なくつぶやく中居。
二日酔いというだけでなく、吾郎の家に二人っきりでいるということで、どうも中居は落ち着かなかった。
 
「・・・で、何でオレはお前の家にいるんだ?」
本当は聞くのが怖いが、知らないわけにはいかないから、中居は吾郎に尋ねてみた。
「本当に覚えてないの?」
「だから聞いてんだろが」
ちょっとイラっとしながらぶっきらぼうに言う中居。
「ふ~ん・・・そうなんだぁ」
うなづく吾郎の頬が緩んでいるのを見て嫌な予感のする中居。
「・・・ゆうべ、何かしたか?オレ」
ちょっと青ざめる中居。
「あ、大丈夫。そうたいしたことしてない。ちょっとみんなに絡んだ程度かな」
思い出したようにクスッと笑う吾郎。
絡んだ・・・
その言葉で二日酔いの頭痛がひどくなった気がした。
 
 
 
つづく。。。
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