久しぶりに、トリビアの森シリーズです。


今回は、昔、森くんがオートレーサーとして誌面を飾った対談記事をご紹介したいと思います。


「Number」という雑誌を、皆さんはご存知ですか?


「Number」は、正式タイトルを「Sports Graphic Number」といい

幅広く様々なスポーツを対象とした総合スポーツ誌です。

プロ野球、MLB、サッカーから、モータースポーツ、格闘技、競馬にいたるまでの全ての分野を網羅しスポーツという舞台の上で繰り広げられる戦い、そこで流れる汗と涙、そこで生まれ後世まで引き継がれる伝説の数々を取り上げ、常に勝負に挑み続けるアスリート達を紹介することをコンセプトとしている雑誌です。


スポーツを扱うこの雑誌に、森くんは養成所時代から何度か取材を受け、そして記事として取り上げられています。

アイドル誌からスポーツ誌へ・・・

取材される媒体の変化が、森くんの生きる世界の変化を伝えているようで、象徴的でした。


私も全部をチェックしていたわけではないので、漏れがあるかもしれませんが

覚えているだけでも

1997年7月のデビュー戦のドキュメントレポ。

それから、デビュー以前の同年3月に、ロードレーサー・故阿部典史氏と、養成所の選手候補生という立場で、対談した記事が掲載されています。


今回、ご紹介するのは1998年1月号に掲載された

(当時)F1レーサーの高木虎之介氏との対談です。


今、この時期に、ブログで紹介するためにこの対談を選んだのは、目前にSG日本選手権を控えた森くんへの、私なりのエールのつもりです。

この対談で語っている言葉、気持ち

それらの中に、「今、15年間の選手生活の中で、一番の不調」と語る森くんが、浮上のきっかけになるような「何か」があるのではないかと思ったからです。


当時の森くんが、何を語っているかを、お読みください。


(以下、Number 1998年1月号より抜粋して引用)


【高木虎之介 x 森且行 レーシングトーク】

「もっともっと限界へ」

~96年10月、F1参戦を発表した高木虎之介。 中略

一方、96年5月、芸能界を引退し、オートレーサーへの転身で注目を集めた森且行。

訓練学校では、落車事故で骨折の重傷を負いながらも、97年2月無事卒業することができた。

そして同期より遅れること3ヵ月、97年7月6日、川口オートで念願のデビューを果たす。

それぞれのレースカテゴリー、キャリアは違えども

スピードに対する飽くなき欲求や、限界を究める姿勢は共通したものがある。

特に今季はマシンコントロール、セッティングの難しさを実感した二人だった ~



Song2


対談部分、抜粋。


ーお二人は初めてじゃないですよね。

森  ええ、プライベートでちょっと。

高木 趣味が似てますから。


ーお互いのレースは見ていますか。

森  現場には行ったことがないです。でも、テレビは欠かさず見ています。

高木 僕たちのレースは重なることが多いんですよ。今年は1日だけ行くチャンスがあったんだけど、何かの用事で行けなかった。森くんの活躍は新聞でチェックしています。


ー高木選手の走りは参考になりますか。

森  僕はバイクだから全然違いますけど、精神的なものがね。相当負けず嫌いなところが共通していると思う。

勝負の世界に身を投じる人は多かれ少なかれそうなんだけど、問題はその質。

僕はまだデビューして5ヶ月しか経っていないので、他の選手たちに比べたら、絶対前に行ってやるという気持ちや、負けた時の悔しさが半端なような気がする。

勝負師としては、まだまだですね。

高木 四輪も二輪もロードレースも、メカニックやエンジニアがいるんですけど、オートレースの人はセッティングからエンジンのチューニングも、全部自分でやるんですよね。

森  そうです。養成所で教えてもらうのはうんと基本的なところだけだから、プロデビューしてから覚えることは限りなくある。

例えば、天候ひとつとっても、気温、湿度、風力、気圧など全部自分でデータをとって、マシンの挙動と照らし合わせ、分析したりするんです。

毎レース毎レース勉強することばかり。

高木 すごいなぁ。僕らのレースは、ほとんどの条件をコンピュータが解析してくれるから、それを参考にするぐらいかな。

 

ーA級の人達と混走して2位になった10月下旬のレース。速いなぁと思ったんですけど、どうして森選手だけが立ち上がりに膨らむ走行をしていたんですか。

森  あれは、僕にとっても会心のレースのひとつでした。

A級の選手は1級車で600cc、僕だけ2級車で500cc(*注 当時、森くんは新人だったので2級車。A級は今でいうS級ランク(上位ランク者)です)

コーナーで回転を落としてしまうと、立ち上がりでどうしてもパワーのあるマシンには負けちゃうので、スピードをあまり落とさずに走るには大きく回るしかないんです。

グリップもできるだけ遅く閉めて、人より早く開ける。難しいですけど、そうしないと1級車の人には勝てない。

高木 レース中、そういう先輩達に故意に妨害されたりはしないですか。

森  ないですけど、若い者には負けない、というオジさんたちがいっぱいいて、僕もこんなオヤジに負けるはずがないと頑張るんだけど、余裕でやられちゃう。それが悔しくて。

高木 年寄りでも速いんだ。

森  うん。オートレースの世界はいきなり速い人っていないんですよ。

だいたい30歳ぐらいから頭角を現してくる。最近ですよ、若い人達が速くなったのは。

高木 どうして。

森  自由になってきたからじゃないかな。

昔はレース場でもぶっ飛ばされたらしいですからね。先輩がセッティングしてくれたバイクには、自分では合わないと思っても、黙って乗りこなさなければならなかったらしいし。

高木 かつての野球みたいに、現役を引退したコーチが、俺と同じようにやれと言って、若い選手の個性や癖を認めなかったのと同じことがオートレースにもあったんだ。

森  そう、そう。経験主義の押しつけ。でも今はないですよ。


ーどの分野でもあなたたちの世代、20~25歳ぐらいの選手達が、経験主義だったスポーツ界を変革し始めている。

でも、自分のポリシーを貫くには勝つことが第一条件。勝たなかったらただの生意気なヤツで終わる。

森  そうなんですよね。勝たなかったらただのバカ。

高木 ヤバイ。僕は今年1勝しかしてない(笑)森くんは?

森  40戦17勝。

高木 そんなに勝ってるの。

森  レース開催が多いから。60試合もある。

高木 でも4割3分ぐらいか。僕は1割バッターだ(笑)でもいいんだ。僕は終わったことは気にしないタイプだから。前しか見ない。

森  僕も引きずらないタイプ。

高木 本当はね、すごく悔しいんだけど、終わったものはしょうがねぇと思うしかない。

森  僕も勝てなかったレース直後、自分に腹が立って腹が立って、顔まで変わっているみたいで、師匠さえ話しかけてこない。

でも30分経ったら、また明日頑張ればいいや、と思うようにしている。


感覚が鋭くなってマシンへの要求が多くなった高木。

新人で試行錯誤の繰り返しだった森。両者ともにセッティングの大変さを痛感した。


森  僕らはセッティングは自分でやるんですけど、正解というものが見てこない。

20年30年のベテラン選手でさえ未だに整備で四苦八苦しています。マシンは生き物。だから、人間に接するように、毎日状態をチェックしなければならない。かといって、絶えずいじくっていると壊れる。

高木 僕らの2倍仕事があるんだ。

森  ドツボにはまった時とかはとにかく思いつくことをドンドンやってみる。

例えばエンジンだと、ちょこちょこ変えるんではなく大幅にセッティングし直すとか。

そうすると良いとこが見つかったりするんですよ。何をどう変えてもどうしようもない時は、エンジンに話しかけながら2時間でも3時間でも眺めてる。

それでひらめきがあったら、それを試して、それでもダメだったらまた考えて、そんな繰り返しで毎日が過ぎていく。

僕はまだ新人だから、ドツボにはまるのもいい経験かなと思っています。

ドツボ、脱出、これを繰り返していけば、走りの感性が磨かれていくと信じていますから。


ーテクニック的に、もっと速くなるにはどうすればいいんですか。

高木 コ―ナーをいかに速く脱出するかでしょう。

森  僕らもそう。直線スピードはほとんど変わらないから、勝負はコーナーですね。

でも、マシンの限界を見極めるのが難しい。限界を超えればすっ飛んでいっちゃうし、ぴったりの限界というのが見極められないですね。

うまく気持ちよく曲がれた時は、これが限界かなとも思うんですけど、実はまだずっと手前なのかも分からないし。

やっぱりメンタル的なものが強くないと、いくら速い車に乗っていてもタイムは出ないよね。反面、すごく強い人は遅い車に乗っていても速いんですよ。

片平(巧・オートレースのトップ選手)選手もそれを言ってました。

限界を超えるのは、メンタル的なものに関わってくるって。

だから僕も、いつも限界を攻め続けようと思っている。

トラ君はF1へ行っても変わらないよね。

高木 来年、応援に来てくれますか。

森  もちろん。

高木 招待しますよ。この間、焼肉をごちそうになったお礼(笑)

森  わっ、エビでタイを釣った(笑)

高木 森くんも、1日も早くA級選手になって、そして1億円プレイヤーになってください。

森  ありがとう。頑張ります。

Song2

本当は5頁にわたる対談だったのですが、高木選手の部分はちょっと省略している箇所が多いです(ごめんなさい)


F1レーサーの高木選手との、同業異種?の対談。

2人は以前から面識があった、と言ってますが、森くんの交友関係の広さにちょっと感心します。

芸能界時代から、同じ世界の人達よりは、こういうモータースポーツ系の人達と交流していたのかもしれません。やはり、興味がそちらに向いていたのでしょうね。


この対談の中でも語っていますが、当時森くんはまだデビューして間もない(5ヶ月)新人選手。

でも、なんだか、今現在、彼が悩んでいることとまったく同じような心境が語られているような気がしてなりません・・・


マシンの限界を見極めるのが難しい。

コーナーをうまく曲がれた時はこれが限界かなと思うけど、実はまだずっと手前なのかも分からない。

マシンスポーツの奥深さを感じる言葉ですね・・・

選手として、15年経った今でさえ、きっと森くんはこれを感じているのではないでしょうか。


マシンは生き物。セッティングに正解はない。いじりすぎると壊れる。
これも、つい先日のトークショーで語られていたことのような・・・苦笑


メンタルが強くないと、いくら速い車に乗ってもタイムが出ない。

あぁ・・・この頃試走タイムがすごくいいのに、実際のレースになると結果が出ない森くんそのもののような・・・


今、彼が「会心のレース」として、振り返ることが出来る戦いはあるのでしょうか?

読みながら段々切なくなってしまいましたが・・・


年齢を重ね、経験を積んだ今でさえ、森くんは迷いの中で戦っているような気がします。

でも、それでも

いえ、だからこそ、レーサーになった当時の気持ちを忘れずに、もうすぐ始まる最高峰のレースに挑んでほしいと思います。


いつも、限界を攻め続けようと思っている


森くんのこの言葉を信じて、31日から始まるSG日本選手権を応援していきます。

がんばれ、森くん!