飲酒することと、生活上のそれ以外のことを比較すると、明らかに飲むことを優先しているように見える、これがアルコール依存症である。


 仕事や趣味、家庭での役割、健康などよりも、飲むことを優先している。


 仕事で集金に回っているときに飲みたくなり、飲み始めると止まらなくなった。そして、集金した三十数万円を、全部飲んでしまった。


 この人には、仕事を全うしようという気持ちはなかったのだろうか。仕事を犠牲にしても、飲酒できれば本望だと思っているのだろうか。


 AAから発行された「回復への道 それぞれの場合」に出てくる人は、母親からもらった子供の出産費用7万円のほとんどを飲んでしまった。


 生活保護費1ヶ月分を3日で飲んでしまって、入院させてもらおうと思って病院に行ったが断れれた人もいる。


 傍から見れば、いったい何を考えているのか、そんなにまでして飲みたいのか、飲むことさえできれば、ほかのことはどうでもいいのかと、あきれ果てるが、これは病気の症状のひとつである。


 病的な飲酒欲求が前面に出てしまい、本当の欲求が覆い隠されている状態という風に見ることができる。


 病気のために、本心が見えなくなっているのである。


 断酒してぷりぷり怒っている人はいない。皆喜んでいる。


 それは、飲みたいというのが、その人の本心ではないからである。


 断酒すると、睡眠や食欲、体調もよくなるが、何よりもうれしいのは、本当にやりたかったことができるようになることである。


 仕事が続く、夕食後に本が読める、仕事の勉強ができる、見たかったDVDがいくらでも見れる、子供にほしいものを買ってあげられるなど、本当にやりたかったことができて、喜んでいる人はたくさんいる。


 飲酒し始めると、飲むことしかできなくなるが、アルコールをやめれば、飲むこと以外のことが何でもできるようになるのである。