漁師の網に珍しい魚がかかった。誰もその名を知らない。


見たこともない魚が取れましたと言って、長崎の代官所に届け出た。


代官所で調べたがさっぱりわからない。そこで魚の絵をかいて、この魚の名を知っているものには十両与えるというお触れを出した。


 ある男が代官所にやってきて、魚を見て、「これは、てれすこと申します」と言って、十両もらって帰った。


 それからしばらくして、前とは違った形の魚の絵が張り出され、名前を知っているものには十両を与えると書いてあった。


 先の男がまたやってきて、「この魚は、ステレンキョウと申します」と答えた。


 聞いた代官が、烈火のごとく怒った。


「これはその方がてれすこと申した魚を干したものだ。お上を欺いて金をだまし取る不届きな奴」というので、打ち首になることになった。


 処刑の日、最後の別れに妻子に合わせてもらえることになった。


この男は、一人息子の顔をじっと見て、お前に言い残したいことがあるといった。


「これから先、どんなことがあろうとも、イカのほしたものをするめと言うな」。


 アルコール依存症になって、いったん飲酒量をコントロールできなくなると、その体質は一生続く。


「一杯のつもりが腹一杯」という飲み方しかできないのである。


 どんなに長く断酒期間をおいても、この体質は元に戻らない。


このことを例えて、AAの本には、「ピクルスはきゅうりに戻れない」と書いてある。日本の断酒会では、「たくあんは大根に戻れない」と言ったりする。


 「ステレンキョウは、てれすこ戻れない」と言ってもいいわけだ。