――土曜の夜、某区役所前。
参議院選挙。
街は静かでも、その裏では「間違いの許されない物流」が動いている。
投票箱、記載台、案内パネル──すべてが“正確に”届いてこそ、民主主義が成り立つ。
それを支えるのが、代走屋。
現場責任者は、鉄の統率力を誇る王馬(43)。
その動きを“支配せずに制御する”のが、MJ軽貨物代表・純(46)。
この夜のメインは2tロング車両。
ハンドルを握るのは王馬、
助手席にはキャリースリー代表・坂保が乗る。
「こういうの、久々ですよ。助手席で動きながら段取り考えるの」
「現場は全部“流れ”っす。読みながら先回るしかないですよ」
王馬の運転は静かだが、迷いがない。
まるで戦場で指揮を執るような視線で現場を切り取っていく。
一方その頃、純は軽バンで静かに巡回していた。
要所の時間チェック、抜け落ちた物品の確認、連絡遅延の穴埋め。
無線で全体をサポートしながらも、決して主役にはならない。
「現場を走るのは王馬。
でも全体を“ぶらさずに支える”のが、俺の役目だ」
23:40。投票所3への搬入が若干遅延。
「俺、こっちの予備機材持って補填回ります。王馬さん、終わったら一報頼む」
「了解っす。坂保さん、搬入スケジュールそっちで読みながら入ってください」
3人が無言で動いたその結果、
予定どおり、すべての機材が各会場に配置された。
0:30、区役所裏。
搬入完了報告を見届けた純が缶コーヒーを開けると、王馬が隣に腰を下ろす。
「やっぱ選挙案件はピリピリしますね」
「だな。でもお前が前に立ってくれてるから、後ろは静かに回せる」
「……それでも、動いてるのはわかってましたよ。“背中、預けてる”って感じでした」
純は笑わない。ただ一言。
「支配してんじゃねぇ。“任されてんだよ”」
夜が深くなる中、明日の回収段取りがまた始まる。
代走屋の仕事に、終わりはない。
(つづく)
