『レット・ザ・ライト・ワン・イン』(邦題『ぼくのエリ~200歳の少女~』) | リュウセイグン

リュウセイグン

なんか色々趣味について書いています。

長文多し。

美しく、儚く、ちょっと笑えるヴァンパイア・ラブストーリー



完全ネタバレ



ツイッターやってるせいか、書くことを小出しにしてしまってはや数ヶ月。久しぶりに書き始めたいと思います。
邦題に関しては、観てからだと色々と分からなくは無いのですが、すっごく無粋な印象を受けるので原題で通します。
最初この邦題知った時、同じ映画だと思えなかったもんなぁ。

かねてより噂になっていたこの作品、やはり特筆すべきは映画全体に流れる透明感・儚げな印象
美しいんだけれども、どこか脆く閉塞感に溢れている。これは風景もそうだし、登場人物にも全体的に言えること。

少年オスカーの繊細さと脆弱さ、ヴァンパイアであるエリの一見無垢そうでいながら何処か怪しい雰囲気も上手く表現されている。
少年と異形の者、けれども正統派ボーイ・ミーツ・ガールの流れを汲む物語なんだけれども、そういう微妙な関係性が登場人物の立ち位置や触れ合い方、また原作タイトルである「モールス」の使い方などで上手く表現されてる。

映像中心なので僕なんかはウッカリしている所もあって、例えば別居しているオスカーと父親のシーンは「何か変な雰囲気だな」とオスカーが疎外感を持っているのは分かったけど、お酒のせいとか友人と仲がいいからかとかそういう風に捉えていた。
しかしながら他のブログ回ると

「父親はゲイみたい」

と指摘されてる方多数。
なるほど、子供産んでるってのが頭にあったからその発想は無かったわ。
一応原作では酒癖の悪さが問題だったらしく、映画中でもコップに視線が行ってる場面があった(と思う)ので、色々解釈出来るようにはなっているんだろう。

あと記事を書くに当たって調べていたらビックリしたのが
「エリぼかし問題」
エリの下半身にモザイクが掛かっているシーンがあったのだけれど、どうやら原作に依れば

エリは去勢された男の子

だったらしい。だからこのモザイクは女性器を隠しているのではなく、男性器が去勢された後を映しているようだ。けれどもモザイクのせいで普通のロリ規制シーンに見える由。

「私、女の子じゃないの」

って台詞は、ヴァンパイアだからだと思ってたよ!
まぁこの時点でオスカーはヴァンパイアって知ってるから、その文脈だと確かに余計な台詞になってしまう。

ともあれ、少年少女(仮)の細やかで危うい関係性を上手く描いていてとっても素敵な作品です。



と、ここら辺までは他の映画ブロガー諸氏の皆さんも書かれていらっしゃると思うので、あとは個人的に面白かったところを書いていくよ!



オスカーの厨二っぷり

これが凄い。
どのくらい凄いかって言うと

夜に住んでる団地の側にある木を
ナイフでぶっ刺しながら
「このブタ野郎!!」
って叫ぶ

くらい厨二。
しかもエリとのファーストコンタクトが、その場面を見られて

「何してるの?」

って尋ねられるって言うね。
もう穴持たずでもすぐさま地面掘って越冬するレベル
こんな悲しい出会いは日本のアニメでもあまりお見受けしない。

しかもオスカー、趣味は殺人事件スクラップ集め

痛い! 痛い痛い!

気持ちは分かるよ、俺も新潮45の犯罪物とか読んでるから!
でもそんなん眺めながらニヤニヤされると、観てるこっちもいたたまれないよ!
エリと仲良くなったあとも、その厨二成分はエスカレートするばかり。

『血の儀式』


とか言ってナイフで自分の掌を切り、エリの血液と混ぜ合わせようとする。

餓えたヴァンパイアに血とか見せちゃらめぇぇぇっ!


エリは諸事情で血を吸うの我慢していたんだけれど、コレでヴァンパイアとばれました。
もっともオスカーを襲った訳ではなく、落ちた血液を舐め取る程度だったんですけど。

そんなオスカー君ですが、彼が厨二化するのも無理はないんですね。

母親は不理解(あまり顔の見えるシーンが無い)父親はオスカーより友達優先、学校では虐められている(ブタ、というのはオスカー自身の渾名)

彼もまた普通には他の人間と相容れない、エリと相似の存在である事が描かれている。
そんな二人は互いに惹かれていく。
モールス信号のやり取りなどが顕著だが、この二人の触れ合いは何かを差し挟んでいたり、面と向かって何かをするのが多い。これはお互いが近しくも異なった存在であることの暗示。
だからこそ二人が寄り添う姿は和むと同時に、何処か脆い香りがする。



ドジッ子ホーカン

そしてもう一人注目したいのがエリの保護者であるホーカン。
初めはどうみてもエリのパパなんだけれど、段々とエリとホーカンの関係性の異様さが見え隠れしてきます。
そしてこのホーカンさん、もんのすごいドジ
基本的にエリの血液を採ってくる=人を殺してくるのはホーカンさんの役目なんだけど、そのやり方が凄い。

並木道の真ん中で催涙ガス使って襲う

しかも、そのちょっと脇辺りに人吊し上げて首切り

牛じゃないんですから……って、そんなんでよくバレないなぁ、と感心してたら

速効バレました。

ワンちゃんが走ってきて、飼い主も追い掛けてきて、めっちゃバレました。
逃げました。
死体は吊したまま。

しかも慌ててたので血液タンク忘れました。


エリ激怒


そりゃ怒るわって感じですが、彼女の為に頑張ったホーカンさんもちょっと可哀想。
そしてエリは食欲に負けて人を襲ってしまいます。

死体処理はもちろんホーカンさんの役目。

流石にホーカンさんもご立腹ですが、それでもエリの後片付けをするホーカンさんマジ人格者。


引きずって近くの湖にドーン……って、それでいいの!?


なんか連続殺人鬼の割にはえらくアバウトなホーカンさん
次の獲物は高校生だ!
この時、エリがオスカーに近付いていることを知ったホーカンさんは

「今夜は彼と会わないでくれ」

とエリに頼み込む。健気ですな。
そして、もし捕まりそうになったらコレを使う、と言って薬剤の入ったビン(塩酸らしい)を取り出します。
顔を焼いて身元を誤魔化す覚悟。ホーカン、漢です。


更衣室で一人になった高校生を襲うホーカンさん!
相手の動きを封じると、吊し上げ……って更衣室の中かよ!

危ないよ!


案の定、先に着替えて待っていた高校生の友達が異変に気付く!
吊してた子も目覚めて叫び出す!
しかも予め蓋を開けてた薬剤ビンを慌ててひっくり返しちゃう!

もう駄目や……とばかりにシャワー室で半分くらいになった塩酸を被るホーカンさん。

最後は担ぎ込まれた病院
で、エリに血液を提供して転落死。



君は忠実な人間であったが、君のドジッ子属性がいけないのだよ



よくよく見ると、ホーカンさんはエリにマジ惚れしていたように見えます(原作では設定違うらしい)
特に「オスカーに会わないでくれ」と懇願する場面や最後の場面ですね。
ところがエリも感謝はしているものの、どこか見下されているような印象を受けます。
受け答えが面倒そうだったりとかね。

倦怠期? みたいな。

そういう部分を観ていくと、ラストシーンであるオスカーとエリの微笑ましいやり取りも、やや皮肉で不穏な予感を漂わせてしまうのですね。


エリ、それで何人目?



他にも普通に美しいシーンや面白いシーンも沢山あるのですが、この映画に関しては特に「百聞は一見に如かず」な部分が多いです。
ヴァンパイア物好きな人、北欧の景色が好きな人、少年少女の恋物語が好きな人は観て損はしないかと思います。