下書きで途中保存のまま1ヵ月?そんなことザラ。だって暑いんだもんwww
自宅に戻り、父の残されたスーツケースを開け手紙を取り出して読み始める。
手紙の記録、記憶は動き出す。
「ジャ~ぁンヌ~!」
「イスマイル!」
幸せな恋人たちの海辺シーン。
何度も書こう。
帽子を取り、リボンタイをするりと外しシャツのボタンをあけて駆け出すシーン。中年の疲れた男から若者に変わった。ほんとにあっという間に。声のトーンはしわがれた声から若者の弾む声。ほんとに観ていてゾクゾクしたの。何がおこったの?
イスマイルの手紙でよみがえる幸福な父と母の思い出。記憶。そして手紙の記憶によって繋がり交差する父と息子の絆。母との記憶。
たくさんの手紙。たくさんの記憶された場面。
出されなかった手紙。封印された記憶。
手紙が、記憶の洪水が、部屋の中を、舞台の上を舞いあがる。
このシーンで舞台の端に工事現場にあるような扇風機が置いてあって他の役者さんたちがその風に手紙を乗せて宙に舞わせるんだけど、手紙の束を掴んで中腰で手をぐいっと伸ばして扇風機の風の前に真剣な顔をして立っていた桃ちゃんの顔が印象的でこれも何故か忘れられない(笑。ほんと職人みたいな顔してた。手紙、飛ばすぞ~って顔。笑。
リーディングの時も、RJの時も、今回のこの舞台も3公演同じ劇場で舞う白い紙。連続3回。なんて偶然。
手紙にはジャンヌと一緒によく行った海のこと。嵐の日のこと。爆撃のこと。祖国のこと。親戚のこと。子供が出来たこと。身体の弱い母(ジャンヌ)のこと。親戚に産むことを反対されたこと。父(イスマイル)が迷っていたこと。母(ジャンヌ)が最後まで懇願したこと。押し通したこと。産まれた時のこと。
そして理解した。父と母のこと。親戚のこと。
手紙で動き出す記憶。
その当時には存在しない傍観者のウィルフリードがジャンヌの陣痛の場面をみつめている。決断をせまる医者と懇願する母と迷う父。それをみつめていた。そして産まれ落ちた瞬間、ウィルフリードはちょうど母の脚と脚の間に立っていた。幸せそうな顔でジャンヌが手を伸ばす先にウィルフリードがいた。幸せなジャンヌの顔ときょとんとそれを見つめるウィルフリード。まるでそれはほんとに産まれた幸せな瞬間のようで、初めて対面する母と息子の瞬間のようでステキだった。幸せな時空が交わった。
手紙を読みながらウィルフリードは眠ってしまっていた。夢の中で母は言う。
『ウィルフリード。母さんは父さんのおはかを探しているの。でもね。おはかが見つからないの。あるはずなのに。』『海の空気はいいね。』『父さんは産まれた国にまいそうされて幸せ。』『父さんは群れの番人なんだよ。』
目が覚めて、イスマイルの背広の内ポケットから最後の手紙を見つけた。
「判治さん。僕の要求は簡単です!父さんを産まれ故郷に返す許可を頂きたいんです。父の愛は向こうにある。」
彼の手には海辺の父と母の写真。最後に見つけた手紙。
父さん行くよ。
どこに行くんだ?
父さんの国!産まれ故郷へ!
自分の血脈と父の永遠に休むことが出来る安息の場所を探しにウィルフリードとイスマイルは旅立つ。



