メタル田幼稚園メタル組の今まで不在だった副担任が復帰する…という話をスプリンガーから聞いた剣流星は、メタル組の副担任がトップガンダーじゃないことを残念がりながらもその副担任の復帰を少なからず楽しみにしていた。
その副担任とは…幼稚園の先生でありながらバイオリニストという二足のわらじを履くラプソディ。
そして今日、ラプソディがメタル田幼稚園に復帰するらしい。
(ラプソディに会うの久しぶりだなぁ~)前世の記憶を持つ流星は現世で初めて会うラプソディに対してわくわくしながら登園。その時‥
『あ』
大好きなトップガンダーの姿を発見し、
『トップガンダー!せんせい!』
呼びながら彼に駆け寄った。すると
『!?』
彼の隣に誰かいて、しかも彼がその誰かと手を繋いでいるのを目撃してしまう。それでも足を止めずに流星は彼らの前に出て
『せんせいおはようございます!』
わざと大声で挨拶した。
『お前か…』
いきなり現れた流星にトップガンダーは眼帯をしていない方の目を丸くする。
流星は彼と手を繋ぐ相手を凝視し、思わず
『トップガンダーの隠し子!?』
と訊いた。すぐさま『違う』と否定されてホッとする。
『呼び捨てにするな』と言われた時気づいた。彼と手を繋いでいたのは自分より年下の少女で、その少女はもう片方の手を別の誰かと繋いでいることを。
しかしそれが誰なのかを確認する前に
『久しぶりだなラプソディ』
という声がして、
『えぇっ!?』
驚いた流星の声が引っくり返った。それで改めてトップガンダーとラプソディがそれぞれ少女と片方ずつ手を繋いでいるんだと理解する。
『スプリンガー…久しぶりだな。元気だったか?』
『おかげさんで』
ラプソディと挨拶を交わしたスプリンガーは見知らぬ少女に視線を移すと
『…で、この子どもは孫か?』
と尋ねた。ラプソディは苦笑しながら
『せめて娘かと訊いてほしかったな。実際には娘ではないが』
と返事する。それから
『夢。メタル組担任のスプリンガー先生だ』
少女に向かってスプリンガーを紹介。
『すぷりんが…?』
『おう。よろしくな、夢子』
自分を見上げる少女にスプリンガーは営業スマイル全開で笑って見せる。それから
『流星』
棒立ち状態の流星を呼び、『ウチのクラスのエース、剣流星だ』とラプソディに紹介する。流星は(エース…?初耳だけど)と思いながら
『つるぎりゅうせい。ごさいです』
精一杯子どもらしく自己紹介して見せた。
『りゅうせー…?』
『よろしくね。ゆめちゃん』
スプリンガーのような営業スマイルを見せた流星は(夢ちゃんだったのか…ラプソディと一緒にいるなら安心だね)と思った後で
『ところで…どうしてトップガンダーせんせいとてをつないでいるの?』
と尋ねる。すぐさまスプリンガーから『嫉妬か』という突っ込みが入ったが聞こえないふりしてスルー。
『ゆめはらぷそでぃとおとなりのおにーさんといっしょにようちえんにきたですのよ』
少女は笑顔でそう答えた。相変わらず両手は繋いだままで。
『おとなりの…おにーさん…?』
聞き返すと
『トップガンダーのことだ』
とラプソディが言い、さらに
『ゆめとらぷそでぃのおべんとうも、おとなりのおにーさんがつくってくれたんですの』
と少女が言った。
『トップガンダーがつくってくれたおべんとう…?』
それを聞いた流星はおうむ返しのように口にした後で
『トップガンダーせんせい!ぼくもせんせいがつくったおべんとうがたべたいです!』
挙手しながら訴えた。が、
『嫌だ断る』
即答で拒否され『がーん…』ショックを受けたことをわざわざ言葉にしてがっくりとうなだれたのだった。
『というわけで…しばらくいなかったウチの副担任がこうしてめでたく復帰した』
『副担任のラプソディだ。改めてよろしく』
『はい拍手~』
スプリンガーに言われてメタル組の子どもたちがぱちぱちと手を叩く。
『それと…今日から仲間入りする夢子だ』
『ゆめですの。よろしくおねがいしますですのよ』
『お前ら仲良くしろな』
スプリンガーから紹介されて少女が頭を下げて見せると子どもたちから拍手される。
『そんじゃ新しい仲間の紹介はそれくらいにして…』
切り替えの早いスプリンガーは唐突に話題を変え、
『来る七月七日は七夕だからな。七夕飾りを作るぞ』
言いながら一旦教室を出ると本物の竹を担いで戻ってくる。
『せんせーコレなにー?』
園児から質問されて、
『七夕飾りの竹に決まってるだろ』
と言うとラプソディに何か合図した。うなずいたラプソディがおもむろに取り出したのはバイオリンで、「たなばたさま」を演奏する。それを聞いた園児たちからは歓声があがり、合唱が始まった。一通り歌い終わったところで
『で、歌詞の中の「五色の短冊」ってやつがコレだ』
言いながらスプリンガーは青、赤、黄、白、紫の短冊を見せて、
『この短冊の色には意味があって…青は人間力を高める。赤は祖先や親に感謝する気持ち。黄色は人を信じ大切に思う気持ち。白は決まりを守る気持ち。紫は学業の向上を願う気持ちだ』
と説明した上で
『まぁお前らには難しいだろうから…色と意味は無視して好きな願い事書け。他の色の短冊も用意したし書いたら飾ってやるから持ってこい。ただし飾るのは一人一枚な』
と告げた。園児たちは好きな色の短冊を持って各自願い事を考え始める。
『ねがいごとか~…まいちゃんなにかく?』
北八荒は隣の席の仰木舞の短冊をのぞきながら尋ねた。
『あたしのねがいごとはもちろんスプリンガーせんせーいったく!』
自信満々に答えた舞は桃色の短冊に「スプリンガーせんせーとおつきあい」「スプリンガーせんせーとデート」「スプリンガーせんせーとけっこん」「スプリンガーせんせーとしんこんりょこう」「スプリンガーせんせーとマイホーム」と書いて立ち上がると早速スプリンガーに見せに向かう。
『嬢ちゃん…一生懸命書いたとこ悪いが飾るのは一人一枚って言ったよな』
『うん。だからせんせーにえらんでもらおうとおもって☆』
スプリンガーに向かって舞は笑顔でそう告げた。直後、
『スプリンガーせんせいぼくもできました!』
流星がやってくる。そんな流星の手にもやはり数枚の短冊が握られて、そこには「トップガンダーに好きになってもらう」「トップガンダーと出会えたことに感謝」「トップガンダーを誰よりも大切にする」「トップガンダーは僕が守る!」「トップガンダーと一緒に幸せになります!」と書いてあって、スプリンガーは
『嬢ちゃんといい流星といい…織姫の前に俺を困らせてどうする…』
頭痛がしそうな頭を押さえながらそう口にした。それを聞いて
『えっ、ねがいごとっておりひめさまがかなえてくれるの?』
舞は目を輝かせる。一方で流星は
『ぼくはちゃんとごしきのたんざくのいみをかんがえたうえでねがいごとかきました!』
と宣言。
舞と流星の短冊を最終的にはババ抜きの要領で適当に選んで飾ったスプリンガーだった。
『つーか…これは本当に願い事か?』
流星が書いた短冊の余りを見ながら尋ねると
『願い事だよ。正確には願い事と、決意表明』
と流星は返答する。
『誰に対しての表明?』
『もちろん織姫と彦星。僕は一年に一度しか会えない超遠距離恋愛なんて耐えられないもん』
そんな流星の発言を聞いたスプリンガーは(織姫に喧嘩売ってると思われなきゃいいが…)と思いながら苦笑するしかなかった。
メタル組で七夕に向けて短冊を書いていた頃、他のクラスでも七夕の準備が行われていた。
ヨロイ組では園児たちが「天の川」や「彦星」「織姫」といった七夕にちなんだ言葉や絵を書いた短冊を笹に飾っていた。
ロボット組では『織姫は機織りが上手だ。だから手芸の上達を願うといいらしい。また、短冊に自分の字で願い事を書くことから字が上手になるように、習字が上達するように等を願うといいそうだ』とバルスキーに説明された園児たちが「しゅげいがじょうたつしますように」や「じがうまくかけますように」といった願い事を短冊に書いていた。
モンスター組では…
『…というわけで織姫と彦星は一年に一度だけ、天の川で会うことが許されたのでした』
ブライディが織姫と彦星の物語を人形劇で披露した後、
『つまり働かずに遊び呆けていてはいかん、っちゅーこっちゃ。わかったか?ヘドグロス!』
ゲルドリングは園児を名指しする。それに対して『なんでヘドグロスにいうんだオッサン!ヨージギャクタイでうったえてやる!』ウィズダムが騒ぎ出すと
『お前もじゃウィズダム!』
『だからなんで!?』
二人の小競り合いが始まって…ブライディはため息をつきヘドグロスはおろおろするしかなかった。
そして機甲組では、
『短冊に書いて吊るすだけで願いが叶うとはコストパフォーマンスが良すぎるにも程がある…が、信じる者は救われる!さぁ!願い事を書くがいい!』
ドランガーを中心に思い思いの願い事を書いた短冊を…笹の葉が足りなくなるほど大量に飾ったのだった。
子どもたちが帰った後、園内の戸締まりを確認していたトップガンダーは軒下に飾られた各クラスの七夕飾りを見て足を止めた。
(同じ七夕飾りといってもクラスによってこうも違うのか…)そんな風に考えながらふとメタル組の七夕飾りに目を向けた時‥
『トップガンダー、せんせい』
『…お前か』
流星から声をかけられた。
『スプリンガーせんせいから「とじまりかくにんおわったか?」とのことです』
笑顔で告げる流星に
『というか…お前のこれはなんだ』
トップガンダーは流星が書いた短冊を指差しながら言った。その短冊には「トップガンダー(せんせい)と出会えたことに感謝」と書いてある。
『え?たんざくにかいてあるんだからねがいごとですよ』
平然と答える流星に(願い事?…これが?)と疑問に思うトップガンダー。そこへ
『トップガンダー』
『いっしょにかえりましょうですの~』
帰り支度を済ませたラプソディと夢がやってくる。
『えっ…いっしょにかえるの!?』
『同じ住所に住んでいるからな。ひとつ屋根の下というやつだ』
ラプソディの発言を聞いた流星は(トップガンダーとひとつ屋根の下…)と考えて、思わず『うらやましい…』と口にした。直後トップガンダーから突き刺すような鋭い視線を向けられる。その時、
『流星帰るぞ』
スプリンガーが流星を迎えにきた。
『お疲れトップガンダー。戸締まり終わったら帰っていいぞ』
『言われなくても済んだら帰る』
スプリンガーに対してトップガンダーがそう言い返した時
『スプリンガーちょっとていあんがあるんですけど』
言いながら流星が挙手する。
『何よ』
『ひっこしませんか?』
『は…?』
「引っ越し?どこに?」と聞き返すと
『トップガンダーせんせいとラプソディせんせいとおなじじゅうしょに!』
「ぼくもトップガンダーせんせいとひとつやねのしたでくらしたいので!」そう宣言する流星にスプリンガーは
『そんな理由で引っ越すわけないだろ』
と告げ、さらに話を聞いていたトップガンダーから
『そんな理由で引っ越してくるな』
と言われたのだった。
ここからは余談だが、
『スプリンガー、ウチでも七夕やりましょう』
『どうした急に』
『ウチでも七夕飾りしましょう。僕短冊書きますから』
帰宅した流星は自宅でも七夕をやりたいと言い出した。スプリンガーが(お前短冊書きたいだけだろ)と思いながら
『今度は短冊に何書くつもりだ?』
と尋ねると、流星は一言。
『「トップガンダーとひとつ屋根の下で暮らしたい。暮らせますように」と!』
そんな流星に呆れながらも
『そうか…まぁ、頑張れ』
一応は応援して見せるスプリンガーだった。
[終]