その日、メタル田幼稚園ではクラス対抗水遊び大会が行われようとしていた。
普段は特に対抗意識のない各クラスだが、勝負事となると何かのスイッチが入るらしく…
『ヨロイ組しか勝たん』
『ロボット組が勝つ!』
『どんな手を使っても構わん。モンスター組が優勝じゃ!』
『勝つのは機甲組に決まっている』
‥といった感じで早くも互いをライバル視する4組。一方でメタル組はというと‥
『クラス対抗?そんなのウチが勝つに決まってるだろ』
担任のスプリンガーが自信満々で勝つ気も満々。
『なんつったってウチにはエース・剣流星がいるからな!負ける気がしねぇわ』
そんなスプリンガーに対して流星は
『エースとか初耳なんですけど』
と言い返した上で、
『っていうか水遊びでどうやって対抗戦するの?』
と質問した。
『よし、じゃあルールを説明してやるから耳の穴かっぽじってよ~く聞け』
そうしてスプリンガーはメタル組の園児を集めてルールの説明を始める。
スプリンガーによると…ヨロイ組はジャングルジム、ロボット組は砂場、モンスター組は裏庭、機甲組は飼育小屋に陣を張っている。その陣地内にある旗を濡らすことができれば勝ち、だという。
『せんせい、おれらのじんちは?』
挙手しながら北八荒が尋ねるとスプリンガーは何も言わずに指差す。指差した先はメタル田幼稚園の門。
『え…?』
『それじゃ作戦会議するぞ~』
八荒が何か言ってくる前にスプリンガーは話題を変える。
『メタル組の旗は副担任のラプソディに守ってもらうとして…』
『責任重大だな』
『ゆめったららぷそでぃといっしょにはたをおまもりしたいですの』
『そうか。じゃあ夢子も頼むわ』
『わかりましたのよ!』
少女がヤル気満々にうなずいて見せた時、
『スプリンガーせんせい』
今度は流星が挙手した。
『何よ』
『トップガンダーせんせいのすがたがみえないんですけど』
そんな流星の疑問に
『トップガンダーは水鉄砲とか水風船を準備している』
と答えた後で
『で、その準備が終わったら…今日病欠の嬢ちゃんに代わってメタル組として参加することになった』
と続けた。
『えっ…ホントに!?』
それを聞いた途端に機嫌が良くなった流星は、
『じゃあぼくがトップガンダーせんせいをまもります!』
と宣言。すぐさまスプリンガーから『なんでだ』と突っ込まれたのだった。
“クラス対抗”水遊び大会と銘打っているが、一部の園児はクラス対抗戦に興味はなく…それどころか別のことを企んでいたりする。
例えばモンスター組では…
『いいか?ヘドグロス。みずふうせんなげるときはひごろのうっぷんをすべてこめてオッサンにぶつけてやるんだぞ』
『おっさん?だれ…?』
『うちのたんにんのオッサンにきまってるじゃん』
ウィズダムがヘドグロスとともに担任のゲルドリングに水風船をぶつけることを話し合い、またロボット組では…
『きょうこそクールギンせんせえのかおをみる!だからクールギンせんせえのかおをねらってびっしょびっしょにしてやる!』
クロスランダーが(やっぱり)ゴブリットとデデモスを巻き込んでクールギンの素顔を暴こうと躍起になっていた。
いよいよクラス対抗水遊び大会が始まる…。
実はメタル田幼稚園には年長組や年少組といった組分けはなく、年上も年下も関係ない大雑把なクラス分けとなっている。それはネロス幼稚園の名残なのだが…勝負事となると園児はもちろん担任も副担任ももれなく全員参加。自分の身は自分で守る、という暗黙のルールの下で開催されるピンからキリのクラス対抗戦である。
『トップガンダーせんせいあんしんしてください。せんせいのことはぼくがまもります!』
メタル組の陣地で力強く宣言する流星に、
『必要ない』
トップガンダーはメタル組の園児に水鉄砲を配りながら告げた。直後、
『流星には八荒とともに重要な任務を与えただろ』
スプリンガーに言われた流星は『じゅうようなにんむ?』
首を傾げながら聞き返す。と
『二人で特攻する。ヨロイ組かロボット組の陣地に』
『イヤですけど』
『おなじく』
平然と答えるスプリンガーに向かって流星と八荒はほぼ同時にそれを拒否。
『じゃあ代わりにトップガンダーにやってもらうか』
そんなスプリンガーの発言に対して
『俺は構わないが』
とトップガンダーが言うと
『やりましょう』
流星が即答。すぐさま八荒が『なんで!?』と叫んだ。
『ぼくとトップガンダーせんせいでメタルぐみをしょうりにみちびきます!』
拳を握ってヤル気満々の流星をよそに
『ところでトップガンダーは着替え持ってきてる?』
スプリンガーが尋ねるとトップガンダーは首を傾げた。
『何故?』
『何故ってお前水遊びよ?濡れないわけないだろ。ちなみに俺や流星はプールに入ってもいいように水着を着用している』
モデル気分でポーズして見せるスプリンガーの隣で『プールにおとされてもいいようにみずぎきてこいってせんせいがいったんじゃん』八荒がボソッとつぶやいた。
『水着…』
そんなもの持ってきているわけがないしそもそも持っていない…と思っていると、
『その顔は持ってきてないな。まぁ言ってなかった俺も悪いか。よしわかった。特別に俺の予備Tシャツを貸してやろう』
言いながらスプリンガーはどこから取り出したのか、自分のTシャツ(の予備)を差し出す。
『遠慮なく受け取れ。そして当然洗濯して返せ』
(それはもちろん借りた以上は洗濯して返すが…)と思いながらTシャツを受け取ったトップガンダーは何の気なしに畳まれたそれを開いてみた。するとそのTシャツにはでかでかと美少女のキャラクターが描かれていて…すぐさま元のように折り畳んで
『遠慮する』
スプリンガーに返却。
『なんでよ』
なんとなく不満そうに尋ねられると
『俺なんかが着るのはもったいない』
と返答した上で
『極力濡れないように努力する。無理なら最悪ずぶ濡れで帰る』
と続ける。それを聞いたスプリンガーは『男らしいな。ならいっそ水も滴るいい男っぷりを見せつけてやれ!』と激励していた。
その頃他のクラスでは…
『ヘドグロス、もうすぐきこうぐみがせめてくるからきこうぐみにまざってオッサンにみずふうせんぶつけてやろう!』
『え…ほんとにやるの…?』
『あったりまえだろ。あのオッサンをかおとはいわずぱんつまでぐっしょぐっしょにぬらしてやる!』
邪悪な表情で悪いことを言うウィズダムにヘドグロスは戸惑いしかない。それでも彼女の言う通り機甲組の園児が水鉄砲を撃ちながらモンスター組の陣地に攻め込んでくると
『よしいくぞヘドグロス!』
『うぃ』
ウィズダムとともに機甲組の園児に混じってモンスター組の旗を守るゲルドリングに向かって水をパンパンに入れた水風船を手榴弾のように投げつける。
‥が、ヘドグロスの投げた水風船はそのほとんどがゲルドリングまで届かず、地面に落ちて破裂した。
『ヘドグロスノーコン』
ウィズダムにそう言われたヘドグロスがわかりやすくショックを受けてがっくりとうなだれた直後、
『ヘドグロス。それからウィズダム』
ブライディから名を呼ばれ、
『ゲルドリング先生じゃなくて他のクラスを狙ってくれないか』
と、遠回しに注意される。が、
『え、やだ』
ウィズダムは即答でそれを拒否。
『こういうときじゃないとオッサンにふくしゅうできない』
『復讐って…ヘドグロスならともかくウィズダムは復讐する必要ないだろう』
呆れるブライディに対して
『ヘドグロスのかわりにふくしゅうしてやるんだ』
ウィズダムはきっぱりと告げる。そんな彼女に『男前か』とブライディがつぶやいた時、
『ヘドグロス!!ウィズダム!!』
ゲルドリングが怒鳴りながら現れる。
『わしに向かって風船投げつけてきたのはお前らか!!』
見ればゲルドリングは頭からびしょ濡れで顔からは水を滴らせていてウィズダムは思わず
『ヘドグロスやったじゃん!オッサンにあたってたみたいだよ!』
ヘドグロスに向かって声をかけた。が、
『違うわ!』
どうやらヘドグロスの投げた水風船が当たって濡れたわけではないらしい。
『機甲組に攻められて集中放水を受けたんじゃ。おかげでウチの旗はびしょ濡れじゃい』
さらにモンスター組の旗は機甲組によって打ち抜かれたようで…モンスター組、早くも敗退。
『オッサン…ヘドグロスのみずぎすがたみてげんきだしな』
と言うウィズダムの隣でヘドグロスがポーズを決めるとゲルドリングのこめかみに青筋が入り、周囲に怒鳴り声が響き渡る。それに驚いたヘドグロスがおもらししてしまい…ウィズダムが『ヨージギャクタイ』と大騒ぎするのだった。
ヨロイ組の担任・クールギンの素顔が見たいクロスランダーはゴブリットとデデモスとともに離れた場所からクールギンを見張っていた…のだが、
『あのひとぜんぜんうごかないな』
『ハシビロコウなみじゃん』
『うごかざることやまのごとし…ってやつ?』
『おぉ~かっこいい!でもそれなに?』
ヨロイ組の旗の前で両腕を組んで仁王立ちするクールギン(今日は頭にステンレス製のバケツを被っている)は微動だにしないためクロスランダーは秒速で見張ることを放棄し、ゴブリットとデデモスに押しつけて自分はどこかへ行ってしまった。
『おれらなにしてんだろな』
『ふつうにみずあそびしたいよな』
ゴブリットとデデモスがそう口にしてため息をついていた頃、クロスランダーは流星とトップガンダーに遭遇していた。
『君…また僕のトップガンダーと勝負しようと?』
『ちげぇっ!…つかしょうぶしなくてもオレがいちばんだし!』
流星の醸し出すただならぬ雰囲気にクロスランダーが動揺する一方でトップガンダーは『僕のって何だ。いやまず先生をつけろ』と流星に向かって告げる。
『そんなにいうならしょうぶしてやらぁ!!』
半ば逆ギレに近い感じで水鉄砲を構えたクロスランダーは引き金を引いた。飛び出した水が流星の顔に命中する。
『みたか!オレがいちばんだ!』
流星を濡らして得意気になったクロスランダーは水鉄砲をトップガンダーに向けそのまま引き金を引く。避ける間もなく濡れる覚悟をしたトップガンダーだったが、濡れたのは流星だった。
『お前…』
『言ったでしょ?トップガンダーは僕が守るって』
構わず水鉄砲を撃ちまくるクロスランダーに向かってトップガンダーは何も言わずに水鉄砲を向けて引き金を引いた。次の瞬間クロスランダーがずぶ濡れになる。
『おぼえてろ~っ!』と悪役の去り際のように叫びながらクロスランダーが撤退した後、トップガンダーは流星と向き合って
『何もお前が代わりに濡れる必要ないだろう』
と告げた。
『トップガンダー水着じゃないし、着替えもないってスプリンガーと話してたので』
そう言うと流星は『大丈夫。トップガンダーの貞操は僕が守ります!』と宣言。
『お前は何を言っているんだ』
そうしてトップガンダーを盛大に呆れさせた。
スプリンガーからヨロイ組かロボット組に特攻しろと言われた流星とトップガンダーがロボット組に向かっていた時…メタル組の旗を守っていたラプソディと夢は暇をもてあまし、水風船を投げ合っていた。そうして夢が投げた水風船が旗に当たり…メタル組の敗退が決まる。
が、そんなことを知らない二人は待ち構えていたクロスランダーを含むロボット組の園児たちから水鉄砲や水風船で一斉に攻められて…さすがに流星独りでは壁になりきれず、びしょ濡れになったトップガンダーは結局スプリンガーから予備の美少女Tシャツを借りて帰ることになるのだった…。
[終]