コトッ


喫茶店に入り、1番奥の席に座ると前橋は水を用意して出してくれた。


私は鞄を置いて、ただボーッとしていた。



…まだ気持ち悪い。


知らない男に、胸やそこを触られてまだ残る感覚が男の顔を思い出させる。


思い出してしまい、吐き気を催して忘れるようにギュッと目を閉じて顔を振ると前橋は心配そうな顔をした。



前橋「大丈夫…?」


鈴本「あ……うん」


前橋「怖かったね…ごめん、遅くなって」


鈴本「こちらこそ、助けてくれてありがとう……」



すると前橋は私の頭をポンポンと触った。

ずるいよ…私、前橋の優しさに触れて泣きそう。



鈴本「なにしてんの…前橋?」


前橋「嫌だよね…ごめんいきなり。泣きそうだったから」


鈴本「………」


前橋「泣きなよ…我慢すんなって」


鈴本「…前橋のくせに……」



そう言われた瞬間、とめどなく涙が溢れだしてきた。


すごく怖かった。コップの水に映る自分をみると泣きすぎて醜い。


いつも見られているせいか、今も誰かに見られてそうでここから離れたくない。


前橋は私の様子を見ながら、話を聞いてくれた。



前橋「何があったか教えてくれるかな…?」


鈴本「……あの人に、つきまとわれてて」


前橋「ストーカー?」


鈴本「うん。学校の登下校、部活までつきまとわれてて…たまに服とかなくなったり」


前橋「お家?」


鈴本「うん……」


前橋「それで、今日のこと…あ、無理して話さなくていいからね?」


鈴本「途中までみんなと帰ってて…駅から走ってきたら、捕まった」


鈴本「口塞がれて気絶しちゃって…気付いたらあそこで…」


私はまた思い出してしまい、気持ち悪くなって制服の腕の部分をギュッと掴んだ。


前橋「……鈴本、無理しなくていい。今日休もうか?」


鈴本「でもそれは……」


前橋「店長にはなんとか言っておくから…ほんとに休んどけよ今日は?」


鈴本「わか、った…」


前橋「送ってく、ちょっと待ってて」



そして前橋は鞄を持って、私の手を引っ張って喫茶店を出ていった。


前橋はずっと私の背中に手を置いてくれていて、周りを警戒しながら歩いている。


申し訳ないな…前橋にまで守ってもらうなんて、情けないな私…



~~~




しばらく移動して、家の前までついた。



前橋「ここで大丈夫?」


鈴本「うん、ありがとう前橋」


前橋「なんかあったら言えよ?休んでもいいからさ」


鈴本「あ…うん」


前橋「じゃあな、おやすみ!」


鈴本「おやすみ!ありがとう前橋…!」



前橋の背中が見えなくなるまで、私は家には入らずにいた。


前橋は女、だけど男で。
優しくて暖かくて家庭的な一面もあれば、さっきみたいに凄く強くなる時もある。


いつだって謙虚で、笑ってていい人…


って、だめだだめだ!


なんだ、前橋が好きみたいなこと考えちゃって私にはダニがいるのに。


前橋は、男…あいつと同じ、優しくても男だから……


私は、ダニだけだ。
少し前橋のこと、見直しただけ。


ガチャッ


私が家に入ると、私のお姉ちゃんが既に帰宅していてリビングでくつろいでいた。


化粧崩れしている顔にもギョッとしているみたいで、露骨に感情が出ている。



鈴本「ただいま~…」


鈴姉「は?なんでそんな化粧崩れしてんの?」


鈴本「ちょっと色々あって…」



私は逃げるように自分の部屋に閉じこもった。


翌日、学校は休み。


もちろん私は何も出来ずに、ただ眠るだけだった。


みんなのLINEも無視して、忘れるように眠るだけ……





~~~~平手~~~

(前日、鈴本を見送った後)



鈴本「ばいばーい!」


理佐「またね!」


平手「じゃあ、ずみこ待たせてるから私も帰るね?」


志田「うん、てちも気をつけて」



ガタンゴトン…



あ…あそこに鈴本が見えた…

あの男の人まだいる…



ガタンゴトン…



~~~



平手「ただいま~」


今泉「おかえり~」


玄関に入るといつものように佑唯がお出迎えしてくれた。

佑唯は私の肩に手を置いて背伸びする。


今泉「ただいまのチューは?」


平手「んっ。ただいま!」


今泉「ふふっ笑」



今日はキスばかりしている。


まぁ、佑唯が望んでいるから仕方がないんだけど


みんなの目を盗んでは死角に入り込んで、部活でも休み時間でも


すぐそばに男子だっているのに、こじんまりとした廊下で


佑唯が私の首に腕を回し、私は佑唯の腰を抱いてキスばっかりしていた。


短いキスを何回も重ねて、唇を合わせては離して、佑唯のうるうるした瞳を見つめる。


そして離れる際は一言、『また今度』って言われるんだ。


それがいちいち私のスイッチを押してしまっているの、佑唯はわかってるのかな?


今泉「あっ…こわいやつ」


2人で座ってテレビを見ていると、8時を回っていてお化け特集をやっていた。


佑唯はお化けが極端に苦手なのに自分への挑戦か、こういうのを見たがる。


私も苦手だけど、佑唯が見るなら…と仕方なく見ることにした。



アナ『橋の上から………』

男『…なんだあれ?…お、おい!!ジョナサン!!』

男『う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


今泉「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ」


平手「うわぁ…」



画面に映るのは、川辺を歩いていた少年2人が撮影したもの。


橋の上から女性の霊と思わしき人物が何度も何度も飛び降りては川に落ちる前にフッと消える。


佑唯は恐怖で大泣きしながら私に捕まっている。



平手「はぁ…怖かった~」


今泉「うぅ…怖いぃ、やだぁ~…」


平手「自分が見たいっていったのに笑」


今泉「うっ、そ、それは…しょーがないじゃん、気になっちゃうんだから!」



私はボロボロ零れ落ちる佑唯の涙を拭って頭をぽんぽんした。


すると、佑唯は甘えるように抱きついてきた。


ぎゅっ


平手「ふふ、怖い?」


今泉「こわい。」


平手「私も怖かった。」


今泉「怖くない人なんていたら逆に怖いよ…」



私も抱きしめ返して、2人ぎゅーっと密着していた。


私はその時、ふいに鈴本のことを思い出した。


ストーカー、大丈夫なのかな?ちょっとした胸騒ぎがして不安になる。


すると佑唯は私の鼻をつまんで、息ができなくなり苦しくなった。



平手「ちょっ…佑唯…っ!」


今泉「…笑」


平手「ぷはっ!なに!?どうしたの?」


今泉「不安そうな顔してたから鼻つまもうって思って笑」



どういうこと……?


まぁ、それは置いといて私は鈴本のことを話した。


平手「鈴本にストーカーがつきまとってて、大丈夫かなって」


今泉「え、ストーカーだったのあれ!?」


平手「え?見かけたの?」


佑唯は私の手をつかんで、当時見かけた時の情報をくれた。


佑唯の話だと、鈴本の後をついていき学校に着くと見届けて帰っていったそう。


下校時にもつきまとい、時間や自宅すべてをチェックしているらしく


ただ写真を撮る等の不審な行為はなく、顔も隠してなくて自然だったことから


ストーカーとは思わなかったそうだ。
プロなのだろうか?


平手「危害は加えてないのかな?」


今泉「でも、すんごい睨んでた記憶は…」


平手「なんだそれー、こわ!」


そして自然と話題は終わり、私はうんと背伸びして立ち上がる。


もう夜11:00を回っていて、今日はもうお風呂に入って寝るだけだ。


私がお風呂に入ろうと思って、歩こうとすると佑唯が袖を掴んできた。


……???


平手「?どうしたの?」


今泉「お風呂…コワイ」


平手「はいはい」


佑唯がお化けが怖くてひとりでお風呂に入れないというので、その日は佑唯とお風呂に入った。


一緒にはいっているのに、ドアをずっとガン見していて…どんだけ怖いんだろう。


いちいち固まる佑唯に心の中でツッコミながら、今日が終わった。