店員さんに「すみません、この番組を見てきたんですけど」とスクショ画像を見せながら尋ねる。
店内の壁には、芸能人のサインを見ずに壁を見るのは不可能な程ずらりと色紙が並んでいる。こういう店なら、きっとこの手の質問も嫌とは思わないだろう。
我々はオタク4人で聖地巡礼にかこつけて、浅草にあるモンブランというお店で食べ放題に舌鼓を打った。
毎週火曜夜、AbemaTVエンタメニュースの中でやる特集コーナー(コーナーは現在やっていません)。そのコーナーでメンバーがロケをして食レポをした店が、このモンブランなのである。
我々は推しが美味しそうに頬張ったものを含め、いろんな種類のハンバーグや、店おすすめのカキフライといったメニューを制限時間いっぱい・腹いっぱいに食べ果てたのだった。
駆け引きの開幕は、会計の寸前、店の慌ただしさも治まった頃合を見計らった。
営業の邪魔にならない配慮、それがこのゲームを成功させる最低限のルールだ。
そう。この時から、駆け引きに勝って“推しの色紙を見る”というゲームは始まっていた。
サイン色紙が存在してるか否かも不明だったが、これだけサインがあるなら可能性は大いにある。僕は恥を忍んで、いや、そもそも聖地巡礼と恥という言葉は対極だ。必要なのは礼節。
ちょうど来たのは、手馴れた対応をしていた男性店員さんだった。この人はきっとリーダー格のスタッフだろう、もしもこの人でもわからなければ諦めよう、そう思える相手だと目星をつけていた。
その時見せたスクショ(うまく撮れたものではない…)
かねてから準備していたカード“スクリーンショット”で一気に決着させにかかる。
店員はスクショの写った画面を見てもピンとこない様子だ。
「AbemaTVで放送してたんですが」
「AbemaTV?なんて番組ですか?」
AbemaTVがピンとこないのは、以前聖地巡礼したケーキ屋で体験済み、計算内だ。
切るカードを判断する。この様子では番組名でも無理だ。ここはグループ名、prediaの名前を出すことにする。
判断するのに時間がかかり答えが遅くなり、店員から矢継ぎ早に次の質問が来る。
「なんてお名前ですか?」
よし、ここでまえだゆうの名前を出せば正解だ、それで無理ならこの店員さんは当日非番だったのだろう。
「prediaのまえだゆう、まえだゆうです、グループ名がpredia、アイドルなんですが」
丁寧に発音する、特に聞き取りにくいprediaは発音に気をつける、抜かりはない。
「まえだゆう…。predia…。」
聞き取れてはもらえているが、これにもまたクエスチョンマークだ。
まえだゆうのインパクトならジョーカーになり得ると思っていたが、どうする?どんなカードを切ればいい??
その時、同席していたルミナ推しが助け舟をだすために、「村上瑠美奈も」と言う。しかし、店員の耳まで届かなかった。
村上瑠美奈の名前を出して、果たして色紙が出てくる可能性はあるのだろうか?他に最良なカードがあるのではないか?と頭によぎる。
しかし、prediaの名前を出してしまった手前、僕らはファンの代表だ、醜態をさらす長期戦はできない。ここで村上瑠美奈というカードが妥当か?引っ込めるべきかの議論をして店員を困惑されるのは名案ではない。
これが最後に切れるカードになる、執拗く聞くのは最悪だ。
まえだゆうのインパクトは凌ぐものはない、村上瑠美奈というカードをジョーカーとして切るのは最善か?いや待てよ、そもそも推しを過信しすぎたか?オタクが陥るよくあるミスだ。
『ルミナだよ~、は世界を救う』と言うじゃないか。
丁寧な口調を心がけて口を開く。
「もう1人来てて、村上、村上瑠美奈です。ありますか?なければ、それはそれで大丈夫なんですが…」
「村上さん…、ルミナですか…。ああ「瑠美奈さん」ですね。なら…、ちょっと待ってください」
そう言って奥に下がり、少しすると手に色紙を1つ持って戻ってきた。
歓喜のあまり、興奮でハム太郎は近くの戸棚に頭を激突させる。
一同が写真に収め、丁寧に感謝を伝え、会計を済ませる。そうして、肉の旨みと脂にまみれた天国とも地獄ともつかない世界を後にするのであった。
帰宅し、色紙の写真を眺めながら、ルミナさんのサインってこんなのかと初めて気づくのである。実は僕はサインに興味がないのだ。それなのにサインに執着したのは、食べ放題なのに少食な自分は大して食べれず、せめて1つくらいは手柄をあげたいと考えたからだ。
しかし、なぜ色紙は1つなんだろうか?まえだゆうの色紙はなかったのか?手柄が半分だったことに不満を覚える。
くそ!なんて事だ!俺としたことが、ちゃんころぴーだったか!
実際の村上瑠美奈のサイン色紙。伏せたところが気になる人は実際にお店へ!
(この先、飾る予定があるとのこと。果たして、ちゃんころぴーの写真も飾られるのか?)



