この世界に入っていなかったら。舞台なんて一本も観ないまま、人生を終えていたかもしれないと思う。今回、蜷川幸雄さん演出のシェイクスピア作品「ロミオとジュリエット」に挑む菅田将暉さんだ。
この世界に入っていなかったら。大して悩みのない自分に不満を抱いたまま、表面的には幸福な10代を送っていただろうと思う。
「大阪で生まれ育ったので、生のライブで観たことがあるのは、吉本新喜劇ぐらい。家族のことも学生生活も大好きだったし、部活も充実してて、結構、健全な青春時代を送っていたんですよ。そのせいか、10代の頃は、“悩みがない”ってことが鬱屈につながっていたのかも(苦笑)。それが俳優になってみると、自分のことじゃなく、役のことや作品のことで悩むことが多くなって。いい大人が必死でもがいていることも含めて、“こういう悩みもあるんだ、面白いな”と感じたのが、俳優を続けたいと思うきっかけになりました」
俳優デビュナイキ フリー
は5年前。「仮面ライダーW」に、シリーズ最年少で主演した。演じることは“壮大なウソ”とわかってはいるけれど、仮面ライダーを演じているときは、「これは子供たちにとっての日常なんだ」と自分に言い聞かせていたという。
「だって、もし自分が子供のときに、大好きなヒーローが、『でもあれ、非日常だけどね』なんて思いながら演じていたとしたら嫌でしょ(苦笑)。やっぱり、芝居をする限りは、その役の人生をいかにリアルに生きるかが、僕らのすべきことだと思うので」
子供の頃はどちらかというと引っ込み思案だった。今も、“目立ちたい”という気持ちはない。カッコよくなくてもいい。共感してもらえなくてもいい。ただ、作品の中で、何かひとつ、人を惹きつけるものを、手に入れたいと思っている。
「前に、蜷川(幸雄)さんの舞台の稽古を見学させていただいたときに、蜷川さんが、『この戯曲つまんないからさ、何とか面白くしようとしてるんだよね』っておっしゃっていたんです。別に本当に蜷川さんがその戯曲をつまらないと感じているわけじゃなくて、『伝わりにくいものを、どうやったら伝えられるか考えている』って意味なんだろうな、って僕は解釈して。伝えることにこだわっている姿勢が素晴らしいなと思いました。人が心を動かすのって、美しさとか強さだけじゃないですよね。愚かさとか醜さとか哀しさ……。人を惹きつける何かを、一つの作品ごとに、僕も手に入れたいと思う」
蜷川幸雄さんが演出を手がけ、出演者が全員男性という舞台「ロミオとジュリエット」で、菅田さんは主人公のロミオを演じる。
「今回は、ちょっと奇抜な企画ですけど、誰よりも自由にやりたいです。俳優の仕事の面白いところは、思いもかけない人との出会いがあって、それによって自分が変わっていくことだったりするから」
そう話す瞳には、鋭い光と翳りの両方が宿っていた。
※週刊朝日 2014年7月25日号