(Number Web)
14番の大畑大介は弾丸と化して疾走した。11番の小野澤宏時は軟体動物の如くタックルを擦り抜けた。世界最多トライ王と日本最多キャッパー。日本ラグビーの歴史に燦然と輝く2人のフィニッシャーと、夢のバックスリーを組んだFBの中で、最も印象深い選手は? と問われたら、迷わず栗原徹と答える。
ボールを持てば、滑らかなコース取りと真横にスライドするステップで相手タックラーを置き去りにした。トップスピードのまま放つラストパスは、並走するランナーの胸にふわりと吸い込まれた。魔法の右足からのキックは、左右のタッチライン際から正確にHポストを射抜いた。-02年に来日したサラセンズのフランス代表FBトマ?カステニエドは、2トライを決めた相手FBを「欧州に来たナイキ フリー どのクラブでも即戦力だよ」と絶賛した。
4月20日、三つ巴で行なわれた全早慶明チャリティーマッチに、栗原徹は全慶大の主将として、最後の秩父宮に立った。全慶明戦では右隅からの一撃も含め2度のコンバージョンをきっちり成功。全早慶戦では終了直前、ラストプレーで鮮やかにトライ。黒黄ジャージーの後輩たちが次々に駆け寄り我が事のように祝福した。トライゲッターには不似合いなほど謙虚で、周りの選手を活かし続けたFBは、チームメートに愛される男だった。
遮二無二トライを狙った栗原のように、香港戦で躍動を。
「トライは嬉しかった。晩年はなかなか取れなくて、トライって難しいなぁともがいていたんです。でも、これから指導者になる上で、いい経験だったと思う」
そう言って、栗原は笑った。4月からはNTTコムでスキルコーチ、慶大でもテクニカル?アドバイザーに就き、すでに次のヒーロー育成に走り始めている。
日本代表は来年のW杯に向け、アジア予選を戦っている。思い出すのは-02年、酷暑の台南で行われた中華台北戦だ。栗原は1試合世界最多得点記録を更新する60点(6T15G)を挙げた。太陽が真上から照り付ける灼熱のスタジアムで、栗原は驚異的な集中力でキックを決め、疲労の極限でもトライを求め走り続けた。世界への挑戦を前に、普段は欲のない男が、クールな仮面をかなぐり捨てていた。
W杯予選最終戦は5月25日、国立最後のラグビーとなる香港戦だ。ジャパンよ、大記録を塗り替えるくらいの覚悟で、世界へ挑む決意をファンに見せてくれ。
文=大友信彦
photograph by Nobuhiko Otomo