11年ぶりに復活したオーストリアGP。マルコとラウダが夢の「競演」。 | モンスタービーツのブログ

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 11年ぶりにオーストリアにF1が帰ってきた。

 これは、改名されたレッドブルリンクでメルセデスAMGがワンツーフィニッシュを成し遂げた第8戦オーストリアGPのことだけを言っているのではない。同じ週末に、同じサーキットで行なわれた、あるイベントにも日曜日に詰めかけた9万人の観客が心を躍らせたからである。それは「レジェンド?パレード」と呼ばれるサポートイベントだった。

 オーストリアGPの主催者が11年ぶりのF1復活を祝おうと企画したこのイベント。オーストリア人ドライバーがかつて自身が駆った往年の名車に乗って、新装されたレッドブルリンクを走るという催しだが、その顔ぶれの中でひと際輝いていた2人のドライバーがいる。

 ヘルムート?マルコとニキ?ラウダだ。そしてこのイベントは、現在のF1にこの2人のオーストリア人がいかに強くかつ深く関わっているかを感じさせるに十分な内容だった。

 まず1972年製のBRM P160bに乗って現れたのが、マルコである。F1出走期間は1971年の8月から1972年の7月までの約1年間だけで、出走回数も9レースだけ。最後はレース中に前車が跳ね上げた小石がヘルメットを直撃し、悲運な引退を余儀なくされたマルコは、結局一度も入賞することができずに、現役生活にピリオドを打った。

ベッテルを発掘し、表彰台の頂上に登った。

 しかし、マルコのレース人生はこれで終わることはなかった。彼はドライバーたちのマネージャーとして、その後、後進のオーストリア人ドライバーの育成を図るのである。最初にマネージメントしたのはゲルハルト?ベルガー。かつてミハエアジョーダン ナイキ エアマックス ル?シューマッハらとメルセデスのジュニアチームでタッグを組んだカール?ベンドリンガーもマルコに才能を見いだされたドライバーのひとりである。

 さらに2000年代に入って、レッドブルが本格的にレース運営に関わり出すと、マルコはオーストリア人だけでなく、レッドブルの若手ドライバー育成システムを任されるようになる。

 そこでマルコに発掘されたのが、ドイツ人のセバスチャン?ベッテルだった。レッドブルの功績の多くは、天才デザイナーのエイドリアン?ニューウェイ(チーフテクニカルオフィサー)が技術部門を統括してきたことによるのは確かだが、人間を育てるというソフト面でマルコが果たした役割も決して小さくない。

 2010年の最終戦アブダビGPで、ベッテルがレッドブルに初めてチャンピオンをもたらしたとき、表彰台の頂点でベッテルとともにシャンパンを浴びていたのは、オーナーのデートリッヒ?マテシッツでもなく、チーム代表のクリスチャン?ホーナーでもなく、あるいはニューウェイですらなく、マルコだったことはあまり知られていない。

不死鳥?ラウダはまさかのマシンをチョイス。

「レジェンド?パレード」で、そのマルコを上回る一番の大声援を受けながら日曜日のレッドブルリンクに登場したのが、不死鳥ことラウダだ。ラウダがこの日駆ったマシンは、なんと-76年製のフェラーリ312T2。そう、-77年に王座を獲得した時の愛車であると同時に、-76年にニュルブルクリンクで開催されたドイツGPで瀕死の重傷に見舞われたときのマシンなのである。

 その悪夢のマシンであえてドライブするあたりに、ラウダの不死鳥らしさがうかがえると同時に、地元オーストリアGP復活を盛り上げたいという熱い思いが感じられた。

 ラウダは現役引退後、フェラーリのアドバイザーとなったり、ジャガーのチームマネージャーを務めた後、2012年からメルセデスAMGの非常勤会長に就任。ルイス?ハミルトンの獲得に一役買っただけでなく、ドライバー2人の良き相談役としても、チーム内で重要な役割を担っている。

「これが最初で最後の共演になるかもしれない」

 昨年まで4連覇を達成したレッドブルと、今シーズンをリードするメルセデスAMG。その両チームになくてはならない存在としていまなお輝き続けるマルコとラウダ。この2人のオーストリア人に共通しているのは、肉体的に大きなダメージをレースで負いながらも、いずれもレースを愛し、そのレースに人生を捧げているという点である。

 そうでなければ、地獄を見たときに乗っていたマシンのコクピットに収まることなど、できはしない。だからこそこの2人の言葉には重みがあり、チーム内の多くの者を説得できる力があるのだと思う。そして、そのような存在が、いまのフェラーリやマクラーレンに不在だということも、事実なのである。

 オーストリアGPのレーススタート1時間20分前に行なわれたレジェンド?パレード。ベルガー、ベンドリンガー、アレキサンダー?ブルツら、オーストリアが生んだ元F1ドライバーらとともに、レッドブルリンクの丘を駆け抜けた71歳のマルコと65歳のラウダ。あるオーストリア人は言った。

「おそらく、これが最初で最後の競演になるかもしれない」

 11年ぶりに開催されたオーストリアGPの勝者は、私の中ではマルコとラウダ、あなた方である。

文=尾張正博

photograph by Getty Images