10月15日付の繊研PLUSに「修理サービス」(https://b161.hm-f.jp/cc.php?t=M57373&c=42499&d=fc08)というコラムが掲載された。ファッション業界では使用済みの衣料品の回収を行う企業が増えているが、廃棄を減らすリデュースや資源として再生利用するリサイクルに対する意識も高まりつつある。一方、服のお直しやリフォーム、靴やバッグの修理など5Rの一つ、リペアの専門店も街中でよく見かけるようになった。あまり見ないのが眼鏡の修理専門店。時計や車と同様に、眼鏡は買った店に相談する人が多いからか、需要は多そうなのに靴に比べて眼鏡の修理専門店は少ないようだとか。そんな中、老舗のメガネ専門店が修理サービスを始めたとのこと。東京・京橋の本店内に修理工房を設け、レーザー溶接機も備え、担当者が常駐して他店購入品の修理にも対応。長く使い続ける価値を提案し、頼れる店として顧客の拡大を目指すということだ。
もっとも、メガネのリペアはサスティナブルが叫ばれる今に始まったことではない。筆者は10年以上前から行きつけのメガネ専門店(OMA)にリペアというか、フレームのリ・コーティングを頼んでいる。フレームがベルギー製のTheo(テオ)で、材質は軽くて頑強なチタン。長期でかけていると、汗や皮脂によってリムやテンプルの塗装が浮いてくる。そこで、フレーム全体の塗装を剥がしてコーティングし直すのだ。ついでに耳に当たる先セルや鼻あてパッドを新品に交換し、緩くなったヒンジ(丁番)のネジも取り替えてもらう。実際の作業はメガネ産地、福井・鯖江の工房が行ってくれている。料金は1万円程度で買い換えるよりは安い。最初にTheoを購入したのは2002年だったが、その後に2回ほどコーティングや部品交換を行い、23年経った今でもかけることができる。流石にデザインは古くなったが、度数が進行したことでパソコングラスとして利用している。これもリペアと言えると思う。
かつてメガネは時計や宝石・貴金属と並んで、高級品の領域にあった。頻繁に買い替えるものではなく、上質なものを長く利用する概念が定着していた。そのため、メガネ専門店ではメガネを視力矯正の道具と位置付け、専門技術を持った眼鏡士がコンサルティングするスタンスだった。商売としては高度な付加価値が反映されるため、店とお客との間で信頼関係ができ上がり、お客はその店でしか買わない。つまり顧客商売だったわけだ。定期的なメンテナンスは無料で、訪れるお客に時計や宝石などをセールスすることで、一定の売上げを維持することができた。1970年代には数々のブランドフレームが登場し、東京・上野の白山眼鏡店は最新流行のフレームを取り扱っていた。80年代には白山が扱う商品がファッション誌のフォトシューティングに提供されることも多く、日本におけるメガネトレンドを牽引していた。もちろん、格安のメガネ店が乱立する今でもそのポジションは健在だ。
ただ、バブルが弾け平成不況が長引く中で、メガネの消費構造は二極化していった。その一つが低価格メガネの登場である。それまでにもメガネスーパーといった中間コストを削減して、眼鏡専門店より割安な価格で提供するところもあるにはあったが、マスになるまでにはいかなかった。そんな中に登場した格安メガネ店のゾフは、ビジネスモデル自体が違った。中国製のフレームに韓国製のレンズを組み合わせ、眼鏡一式5000円、7000円、9000円のスリープライスで提供。収入が限られる若者は高価な眼鏡には手が出ず、視力の変化スパンが短いことからも、手頃な価格帯へのニーズが高かった。また、ファッショントレンドの変化によって「かけかえる」ことに何の抵抗もなかった。つまり、低価格であることが若者たちの人気を呼んだのだ。現在ではゾフの他にハッチ(メガネスーパー)、アルク、眼鏡市場(メガネトップ)、ジェイアイエヌなどにより、低価格のメガネ市場は寡占状態になっている。
だが、中国の人件費上昇によるコスト増、加えて急速な円安で低価格を売りにするメガネ店も価格転嫁を余儀なくされている。ゾフでは5000円台のメガネは揃えるが、中心価格帯は12000円~13000円で、レンズをオプションにすると、さらに3300円から8800円が上乗せされる。それでも最低5~6万円のメガネに比べると割安だが、低価格戦略だけでは生き残りが厳しくなっているのも確かだ。一方、福井・鯖江のメーカーではメガネ制作のワークショップを開くなど、単なる生産基地だけでなく、技術力の凄さという側面からエンドユーザーと直接接点を持つアプローチを見せている。また、鯖江のメガネ企業で構成する(一社)福井県眼鏡協会は、製品受注やOEM、展示イベントの開催、産地ショールームの開設など、鯖江ブランドの振興に努める。加えて、JAPAN GLASSES FACTORYの名のもと、独自ブランドのアンテナショップ「さばえめがね館」を全国に展開する。公式サイト(https://www.japanglasses.jp/)も開設し、近隣に店舗がない場合は通販にも対応する。
メガネ作りのノウハウが修理に生かせる
鯖江の公式サイトを見ていてたどり着いたのが、メガネの修理を直接受け付けてくれる「リペア(http://repair-f.com/)」や「鯖江めがね修理工房 るねっと(https://www.lunette.jp/)」。これらの企業は、「フレームが壊れた」「カラーが剥がれた」「フレームが変形した」「セルの鼻盛り・クリングスの交換」「オーバーホールしてほしい」といった修理ニーズに法人(メガネ専門店)、個人を問わず対応してくれる。その流れは実にきめ細かく、作業も以下のように丁寧だ。
メガネ部位の修理内容(リペアの場合)
①修理品を受け取り、修理部分の確認
②断裂したヒンジ(丁番)はロウ付け。レーザー照射で溶接
③溶接部分にチクニロウを使い、差しロウして強度を高める
④金属部分の塗装剥がれは色を調合し、部分ペイントで補色
⑤ナイロールのリム切れ・割れはレザー溶接で修理
⑥セルフレームのブリッジ折れは、類似色の生地を貼り合わせる
⑦セルテンプル丁番は生地カット後にロウ付け、生地を貼り合わせて研磨
もちろん、樹脂フレームや生地の劣化が激しいものは接着が出来ないため、修理できないものもある。それでも、修理についてはしっかりアドバイスしてくれるので、心強い。また、無料通話・メールアプリLINEを使って問い合わせが可能。お友達追加し専用のQRコードを読み込むか、専用のLINE IDを検索すれば、見積りなどが気軽に申し込める。格安メガネは修理するより買い替えた方が安くて済むだろうが、お気に入りのブランドや重厚なセルフレームをかけ続けたいのであれば、修理を選択するのも一手だ。鯖江のメガネ技術は世界に誇れるレベルだ。卓越したノウハウを蓄積する中で、メガネの修理も受け付けてくれるのだから、仕上がりは申し分ないと思う。これは筆者が行きつけのメガネ専門店を通じて、鯖江の工房でリ・コーティングしてもらった経験からも感じている。
アパレルと同じで、メガネにもトレンド周期がある。デザイン的にはレンズが小ぶりの物が流行すると、次はリムが大きなフレームに変わる。丸型レンズが流行ると次はスクエア型に揺り戻す。その繰り返しだ。手元に1988年2月5日付け雑誌アンアンのメガネ特集号があるが、掲載されているメガネを見ると、デザインは昨今のものと全く変わらない。人間の顔の輪郭や彫りの深さ、鼻の形、高さは西洋人と東洋人では異なるが、それぞれの目、鼻、耳といったパーツは同じだから、メガネの基本形は変わらない。次世代のスマートグラスでも同じだろう。トレンドだけ追いかけるのなら、低価格のメガネで十分なのだ。ただ、低価格メガネは種類は豊富なのだが、どこのショップも似たり寄ったりのデザインやカラーばかりで、没個性に入った感は否めない。寡占状態にあっても、それぞれが成り立っているというのは、価格の安さで選択する人が多いということだろう。 修理をしてまでもかけ続けるスタイルが浸透するには、もう少し時間がかかるのかもしれない。
金子眼鏡店のように歴史と伝統、職人技に裏打ちされた上質なオリジナルを提供するところもあるが、トラディショナルなデザインが多い。こちらも鯖江製造だから修理は可能だ。一時はアパレルスタッフの御用達にもなっていたし、今でも一定のニーズはあると思う。さらに海外の展示会では、「RIGARDS」のようにリムが小さなものが出品されていると、OMAのマネージャー上田茉緒さんは語っていた。このブランドも1点10万円以上と非常に高価だが、金属フレームで堅牢な作りだから劣化してもリペアすれば、一生物になると思う。先日、ラグジュアリーアイブランドの「JACQUES MARIE MAGE(ジャック マリー マージュ)」が日本初の旗艦店を東京・表参道にオープンした。フランス出身のデザイナー、ジェローム・ジャック・マリー・マージュが2014年に創業し、ロサンゼルスを拠点に活動する。日本やイタリアの熟練職人の手で限定生産しているので、こちらもリペアは可能と思う。どちらとも、デザインは奇抜なというより、ちょうどいい塩梅で個性が宿る。メガネによってキャラクターイメージができ上がる職業人向きかもしれない。
個人的にはメタルフレームのカラーリングを変えてみるのも、楽しいのではないかと思う。メガネを選ぶ時、フレームのデザインは自分の顔立ちにあっても、カラリングが気に入らないことがある。また、髪や肌の色に合わせて、フレームの色が変えられれば、全体のスタイリングが決まってテンションも上がる。その日一日の気分が良くなるのだ。自分の経験からすれば、フレームのコーティングが可能なのだから、新品の状態で色を変えることもできるはず。もちろん、テンプルにブランドロゴがプリントされていれば、それも色かえで消えてしまうのは承知の上だが。リペアのサイトを見ると、「カラーを変更したい」というのが修理の項目に掲げられている。るねっとに「メタルフレームのカラーを変更できるか」を問い合わせると、「もちろん、できます」という答えが返ってきた。鯖江の職人さんがきめ細かく対応してくれるのだから、最高のカラリングに仕上げてくれると思う。
メガネ業界では、コスト削減に今以上の努力を払って現状のままの低価格路線を踏襲するのか。十分な利益確保と顧客定着のために、高級品の取り扱いを含めた路線変更に打って出るのか。その二択を迫られているように言われるが、サスティナブル時代のリペアなどサービスの領域を広げて、ニッチな市場を開拓していくことが三つ目の選択肢となるのではないか。もちろん、これはアパレル業界も同じことなのだが。服もメガネもリペアすると、よく見えるのは間違いない。
※当コラムは2010年ごろからGoo Blogにて執筆をスタートしました。ですが、25年11月18日でサイトのサービスが終了することになり、Amebaへの引越しを致しました。過去14年にわたる月別アーカイブは、2011年から併載していますlivedoorブログ(http://blog.livedoor.jp/monpagris-hakata/)でご覧いただけます。







