山下と大室はそれから頻繁にLINEをするようになった。最初はその後の状況などを確認するようなメッセージであったが、だんだんお互いの私生活の話しや雑談などを交わすようになっていった。山下は大室のノリの良さに好感を持ち、いつしか大室とのやりとりを楽しむようになってきていた。
大室も自分の彼からの連絡がない寂しさを埋める様に、山下との会話を楽しむようになっていった。大室は寂しがり屋ということと、彼からの連絡がないことでいろいろと余計な事を考えてしまう自分がイヤだった。なので山下との会話は実に丁度良い暇つぶしになっていた。いつしか大室は気が付くと山下に連絡を送るようになっていた。それも他愛もない内容のものでも相手がどう思うかも関係はなかった。いつしか山下と大室は「おはよう」とか「おやすみ」などの挨拶とちょっとした会話をするような、いってみればあたかも恋人同士がするようなやりとりになっていた。
さすがに山下もそれに気づき「なんだか恋人同士みたいな会話になっているね。」と送ってみた。山下は大室がどんな風に返してくるかによって、自分に少しでも気があるのかどうかわかるかもしれないと、少しだけ何かを期待した。
「そうなの?」
大室はあまりそういうことを彼とはしたことがなく、ごく普通の会話のように受け取っていた。もともとノリの良い性格なのと、周囲からは”天然”と呼ばれているくらいの性格なので、相手を勘違いさせてしまいホレさせてしまうことが多々あり、それも自分自身で少し反省はしているが、それが普通の彼女にとって、言い寄られるのがとてもイヤだった。
山下とのやりとりも、彼女にとってはごく自然に普通に楽しんでいるにすぎないが、山下にとっては徐々に大室に惹かれていく部分があることを認めざるを得なかった。しかし、大室にはまだそこまでの感情はなかったことに山下は気づき僅かではあるが気持ちの落ち込みを感じた。
「ふっ、そりゃそうだよな」
山下はめずらしく独り言をはきながら苦笑した。大室には付き合っている相手がいるのだ。そうそう簡単には自分の方には向くまいということは冷静に考えればわかることだった。あまり大きな期待はせず、適当にやりとりを楽しむようにしようと自制心を持って大室と向き合う努力をしてみることにした。
それから数日、数週間と1日も間を開けることなくやりとりは続いていき、いつからか大室が声を聞きたいと言い出した。
「電話できる?」
「じゃあ、車の日に仕事終わりにでも」
「うん、じゃあ終わったら連絡してね」
そして車での出勤日の帰り道、山下はコンビニの駐車場に止め大室に連絡を入れた。
山下は初めて大室の声を聞いた。それは想像していた声よりもはるかに可愛く、そして優しかった。女性の声に惹かれたのは山下にとって初めてのことで、そんな自分に少々狼狽した。後になって山下はその時に何を話したのかよく覚えていなかったが、確実に自分が大室に惹かれていることを自覚せざるを得なかった。
山下はダメ元で大室にアプローチしていくことにした。もともと付き合っている彼もいることだし、フラれたところで何も問題はないし、おかしないい方だが彼女とつながっていられるのなら2股でも構わないとさえ思った。
「俺はどうかしているんじゃないか?」
いまだかつてこのような思考になったことすらないので、今の自分の感情が時々信じられないとも思ったりした。メッセージのやりとりだけでなく電話の回数も増えて来て、確実に感じてきたことがある。それは大室の気持ちもこちらに向きつつあるということだ。
「気になる存在。存在が大きくなってきている」
こう大室が言ってきたのだ。しかし好きだとは言わない。まだまだ今の彼の存在もあるし、簡単にはそうは言えないだろう。
そんな微妙な揺れ動く心の状態が、急展開を迎えることになった。