4月×日17時57分、北上(きたがみ)到着。東北新幹線沿いに北上という駅があることすら知らなかった。いとこのM子が集合場所として指定した駅であった。

 

いとこたちは北海道の苫小牧(とまこまい)港からフェリーに乗り、青森県の八戸(はちのへ)港に上陸。そこから陸路、北上に来た。母の姉の娘たちのY子とM子、M子の旦那のY。

 

その夜はおでん屋へ。北海道のおでんと違うという感想をいとこたちが口々に言っていたが、北海道のおでんって何?生ビール2杯。Yは4杯。東北の旅の最初の夜。雨が降って冬のように寒い。

 

4月×日8時半、遠野を目指して北上出発。雪と桜が同時に山々を彩る。

 

M子「わては春もみじが好きやわ」

新緑の前、桜が散りかける頃、山々が薄緑色と薄ピンク色の曖昧な色合いに染められる。紅葉の頃の鮮やかな色のコントラストとは異なり、ぼんやりとした感じがこれもまた妙である。

 

Y子が一句、「春もみじ、空にひらひら鯉のぼり」。ヨッ!

 

国道107号線沿い、Yは、女たちの饒舌(じょうぜつ)な会話を聞き流しながら、車を走らせる。

 

山の端(は)には、食べられることなく取り残されたふきのとうが花を咲かせていた。ふきのとうは、花を咲かせてしまうと価値がなくなる。芽生え始めた小さな頃に、半ば土に埋まっているところを見つけてやらないといけない。

 

遠野の伝承園。30分ほど前に熊が出たそうで警戒態勢。語り部の「たきさん」の話、5種。「座敷わらし」「極楽見てきたばあさん」「節句」「嫁さん二人」「豆腐とこんにゃく」。(下は語りの場である「いろり」)

 

Y子「日本の原風景を見た」。そうなのね?(下は遠野名物のかっぱ)

 

東北もしくは本州の農村でしばしば語られる「嫁いびり」の話というのは、いとこたちが育った北海道では無縁の話だ。「家を継ぐ」という慣習もしくはプレッシャーがない。親が死ぬと、家は取り壊され、更地(さらち)にされる。売れればよいが、売れない場合は、誰かが引き継ぎ、固定資産税を払い続ける。

 

遠野は午前中で終了。そのあと、私たちにとって母方の祖父母の出身地である、岩手県気仙郡住田町下有住(しもありす)に向かう。「気仙」という地名を、叔母がしばしば口にしていたそうだが、M子はてっきり「気仙沼」だと思っていたそうだ。叔母も私の母も自らの出自に関してほとんど語ったことがない。とぎれとぎれの言葉を拾い集めて、私たちは、それぞれの母がどういう人だったのか、何を考えて生きてきたのか、知りたいと思っている。(続く)