703号室 天下の秀才君①
(2002年入居 当時18)


中尊寺君はうちの高校屈指の秀才だった。



なにせ天下のT大に行ったくらいなのだ。



だがあたしは完全に別のポイントからずっと目を付けていた。




見た目は将棋の羽生善治によく似ていて、いつも凄まじく姿勢がいい。




着物が似合うというよりTシャツなんぞ着てる方が違和感がある人なのだ。





何より物腰が完全に浮き世離れしていた。






登下校時は常に左手を後ろに回し、右手で『三國志』を掲げて読みながら歩く。



犬も車も中尊寺君だけはよけて通る。




でもうちのジャックはよけて通らんぜ!!




しかしながら、学生服なのに大学教授ばりの存在感。





それより学生鞄は何処に?






そんな中尊寺君の浮き世離れぶりを物語るエピソードがもうひとつある。







3月のある朝、遅刻ギリギリに駆け込んでくる同級生たちを後目に、中尊寺君が桜の木の下に佇んでいたことがあった。






ん?なんか色紙みたいなの持って何して…?











って、朝から一句詠んでいるーー!!!!!










おまえは皇族かー!!








そんな中尊寺君の口癖は



「大変遺憾でございます。」













だから宮内庁かー!!








そんな中尊寺語録、まだまだあります。





「好物ですか?羊羹とべったら漬けでしょうか。」










お茶うけ!!






つづく!!
702号室 ヨシヒコ
(2008年 当時59)


ユカリは昔からの友人だが、父親のヨシヒコに会ったのはそれが初めてだった。



彼は飲み会のお開きが遅くなったユカリを迎えにきていた。



書いといてなんだが、彼は実は変な人ではない。




いたって普通のおじさんである。





その日の服も、中年男性が好んで着用するグレーの長袖ポロシャツにスラックス。



だが完全にノーマルなはずなのに妙な違和感。





ハゲてもないのに眩しいのは…






スニーカー?






ヨシヒコの足元でネオンイエロー×黒の裏原系ローテクスニーカーが燦然と輝いている。





ユカリ、あんたの親父何?







その謎は後日解けた。




ヨシヒコには最近職場でお気に入りの青年がいる。




その青年は「大木君」といい、地元K大学工学部の院を出てヨシヒコの会社に入った。



28歳、長身で永井大似。






夕食時はとにかく大木君をベタ褒めらしい。





「ユカリの彼氏にどうだ?」




みたいな話まで出てるんだと。




…ん?




確かそんな人…。





「その人、ユカリが前に付き合ってた「青木」さんみたいだね。」






でも名前違うしね。







「それが実は…、そうだったのよー(絶叫)!!」





…マジで?





世間狭!






何よりヨシヒコ、部下の名前の把握が雑。





しかもヨシヒコは当時娘の彼氏として青木に何度か会っているという。





一度など、


「お前!何時までユカリを連れ回しとるかー!」

と玄関で1時間説教したこともあるらしい。






にも関わらず、「大木=青木」に全く気づいていないのだ。





猫は3日で忘れる。


オヤジは即日忘れる。







そして件のカッコいいスニーカー。




実は昔、青木がユカリの家に忘れていったものだったのだ。





そうとは知らず、ヨシヒコ大のお気に入り。







アブねー!




ヨシヒコが現場に履いてったらバレてまうやないか!








いや、待てよ。







それよりヨシヒコが空回りして、強引に見合いを組んだら最高だ!






行け、ヨシヒコ!






ユカリ、申し訳ないが続報待つ。

602号室 コリアンおばちゃん
(2007年入居 推定当時55)



学生時代、ある商業施設の中の店でバイトをしていた。


割と有名な観光スポットだったので、海外からの観光客もかなり多かった。


欧米の方が目立ってはいたものの、実際はおそらく韓国・中国人の方が圧倒的に多かったと思う。




その時の話だ。



あたしは語学が堪能でないので、外国の方に話しかけられるのが苦手だった。




英語ならまだ努力のしようもあるのだが、(受付を指して「インフォメーション!」と叫ぶ。)
それ以外は完全にお手上げだ。





特に韓国のおばちゃん。





恐ろしいことに、1%のためらいもなく自国語で話しかけてくる。





何の自信?






あちらのガイドブックには



「日本のショップのサービスは極めて質が高く、ことサービス業に従事する者はコンビニ店員から屋台のおやじまでおおむね8ヶ国語に堪能である。」



とでも書いてあるのか。




はたまた




「片言の英語でも使おうもんなら、政治犯もしくはテロリストとして国際指名手配を受けかねない。」




と硬く信じているのか。






詳細は不明である。







そんな感じで、その日もひとりのコリアンおばちゃんがつかつかと近づいてきた。




顔だけでは日本人と区別がつかないが、韓国のおばちゃんたちはファッションに特徴がある。



彼女らは、緑×オレンジとか青×ピンクとかの非常にサイケデリックな色彩の組み合わせを好んで着用するのだ。




そしてなぜかサザエさんパーマが大流行している。






そのおばちゃんももちろんサザエさんパーマ。


服は黄色のパンツに赤いポロシャツを着ていた。







プーさんか。







そして、例によってものすごい勢いで韓国語で話しかけてきた。






「日光、鯖がドル安アーエー!ジョン、池で4倍増殖ニダ!」







…わからん。


皆目わからん。





がんばってネット日韓辞典とかをひっぱったりしたが、結局おばちゃんは喚きながら行ってしまった。





頑張ったのに。








それから2週間ほどしたある日のこと。







その日もあたしはバイトだった。




仕事の合間に従業員トイレに行くと清掃中。




「ごめんなさい、こっち使ってもいいですか?」




屈み込んで奥を掃除している清掃員さんに声をかけた時だった。





「はい、どうぞどうぞ~。お疲れさまです~。」






と振り返った清掃のおばちゃん。




















この間のコリアンおばちゃんやんけーーー!!!!











しかも名札「高橋正子」だし!







衝撃のあまりジャックはPTSDに陥り、四つん這いでぐるぐる回りながら




「カウンセラー呼んで~」


と叫んでいた。







後日、必死の情報収集でわかったのは、正子が純日本人だということと勤続18年のベテラン清掃員だということだけだった。






何がしたかったんだ、正子。







それからも時々モップを持ってイソイソ歩く姿を目にすることはあった。






熱烈な韓流ファンなのか。




実は劇団ひとりだったのか。






相変わらず詳細は不明である。







↓正子が脳裏に浮かんだ気がしたら。


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